ハッピー・バスディ
今日は8月26日は、俺-神尾アキラ-の誕生日だ。
運良く今日は部活も無く、跡部の家に来ている。

「ほら、紅茶入れたぞ」

コトンと、香りよい紅茶の入ったティーカップをテーブルに並べる。
テーブルの中央には、美味そうなホールケーキが置かれている。
チョコレートで『HappyBirthdayAKIRA』と書かれたプレートが乗っている、バースディケーキ。
色とりどりの蝋燭を14本、ぐるっとさしてある。

「跡部、火は?」

そう言うと、跡部はシルバーのZippoを取り出した。
蝋燭に火を灯していく。
全部の蝋燭に火が灯った所で、あとはアレを待つ。
しかし、一向にアレが行われない。
俺が痺れを切らしたところで、跡部が口を開く。

「何で、火を消さないんだ?ケーキが、食えないだろ?」
「いや、だって。歌は?」

そう一言言うと、跡部が首を傾げた。

「歌だぁ?何言ってんだ、お前」
「跡部こそ、何言ってんだよ。バースディケーキには、歌がつきものだろ?"ハッピー・バスディ"がさ」

"ハッピー・バスディ"を皆に歌って貰って、歌い終わった所で火を吹き消す。そこで拍手を送られて、お祝いの言葉を貰うもんだろ?

「それを俺に歌えって言うのか?どうしてもって言うなら、自分で歌え」

"そんなガキっぽい事出来るか"と言って、跡部は俺に視線を投げかけてくる。
何があっても、歌う気は無いらしい。
でも歌が無いんじゃ、かなり味気ない。
しぶしぶ、俺は"ハッピー・バスディ"を歌う事にした。

「ハッピバースデー・トゥー・ユー。ハッピバースデー・トゥー・ユー。ハッピバースデー・ディア・アキラ。ハッピバースデー…?」

あれ?トゥー・ユーって、おかしいよな。
俺を祝ってんだから、そこはトゥー・ミィーが妥当か?
っうか、俺が歌う事に意味があるのか!?

「なぁ、跡部」
「あぁ?どうした?突然、歌うのも止めて」
「やっぱり、跡部が歌ってくれよ。今のも、間違って跡部を祝っちゃったし」

そう言うと、跡部が眉間にしわを寄せた。

「お前、さっきの素で間違ってたのか?俺は、てっきりウケでも狙ってるのかと思ったぜ」
「はぁ?んなわけ無いだろ!っうか、気付いてたんなら、言えよ。俺一人恥ずかしいだろ!」
「てめぇは、いつも恥ずかしいだろうが」
"そんな事にも、気付かねぇのか?"と言って、跡部はため息を吐いた。
「なんだとう。それは跡部だろ!?」
「俺様のどこが恥ずかしいって言うんだ?」
「そう言う所だろう!」

結局、その後30分この論争は続き、気が付いた時には既に、蝋燭が全て燃え尽きていた。
なんか、さんざんな誕生日になってしまったのだった。






モドル






イニシャル
放課後、いつものように跡部の家に寄った。
今日は中間試験の1週間前で部活も無く、これから1週間、跡部に勉強を教わる事になっていたからだ。
玄関の鍵を開ける際、跡部が"そう言えば…"と言って、俺の顔を見た。

「お前、俺の鍵と自分の鍵、間違えて持ってるだろ?」
「えっ?」

跡部に指摘され、ポケットから家の鍵を取り出してよく見てみると、確かにキーホルダーのイニシャルは"K.A"だった。
俺の場合はAkira Kamioで"A.K"のはずだ。

「わりぃ。急いでたからよぅ」

そう言って、自分の持っていた鍵と跡部の手にある鍵を交換する。
このキーホルダーは、跡部のと俺のを間違えないようにと付けた物。
実際、どちらの鍵にもお互いの家の鍵が付いているから、間違えても大して支障はない。
それにしても、紛らわしいんだよな。"A.K"と"K.A"ってさ。
日本語の綴りで書けば、"K.A"は俺の方になるし、跡部だって"A.K"になる。
あれ?ちょっとまてよ。イニシャルが逆って事は…。

「なぁ、今思った事なんだけど、いってもいいか?」
「勝手に言えばいいだろ」
「もしもだけどな。もし、俺と跡部が結婚できたとするじゃん」
「お前、俺と結婚したかったのか?」

真剣な顔で、跡部がそんな事を聞き返してくるから、思わず顔が赤くなりそうだった。

「って、違う!!もしもの話だって言ってるだろ!」

思わず、大きな声で否定すると、跡部は"分かってるって"と言葉を返してきた。しかも、顔が凄くにやけてる。
くそうっ、跡部の奴、俺の反応を見て、楽しんでんのかよ。
このまま、跡部のペースに巻き込まれるのも嫌だったら、取りあえず会話を元に戻す。

「結婚すると、まずはどっちかの籍に入るだろ?そうすると、跡部アキラか神尾景吾になるじゃん」
「てめぇは、俺に婿に来いって言ってるのか?」
「だからそう言う意味じゃなくて!茶々入れるなよ。それでイニシャルを書いた場合、俺が跡部の籍に入ったら"A.A"で、跡部の俺の籍に入ったら"K.K"なんだよ。これって、なんか凄くないか?」

嬉々としながら言うと、跡部は盛大なため息をついた。
そして俺の頭をスパーンと、ノートで叩いた。

「このバカ!てめぇの脳みそは、そんな事しか考えられねぇのか?」
「だってよぅ」
「そんな事考える暇があるなら、少しは勉強に役立てろ!」

そう言って、問題集をバンバンと叩いた。

「今日は、これが終わるまでは帰れねぇと思えよ」

跡部の言葉に、俺は返す言葉も見つけられず、そのまま問題集を解き始めた。
こんな目にあうんなら、言うんじゃなかったと、俺は酷く後悔した。






モドル






ヨンタクロース
12月25日の朝。それは子供にとっては特別な日だ。
目を覚ました子供の枕元には、綺麗にラッピングされたプレゼントの箱。
サンタクロースからの贈り物である。
それにより、子供はサンタクロースの存在を信じるのである。
しかし、それも本当に小さい子供の場合。
段々と世の中を知り始めた子供は、サンタクロース=親だと言うことに気づき始め、中学にあがる頃には、サンタクロースを信じている子供は殆どいなくなっている、はずであった。

「そういえば、明日ってクリスマスだよな」
「あぁ、そうだな」

一応、恋人らしくクリスマス・イブにデートをしているわけで、明日がクリスマスだと言うのはあたりまえである。
それなのに、そんな事を口にした神尾に跡部は少し流しつつ答えた。

「なんかさ、こうクリスマス・イブって、ドキドキするよな」
「あぁ?なんでだ?」
「だってよぅ、明日はサンタからプレゼントをもらえる日なんだぜ。わくわくするだろ?」

確かに、子供の頃はそんな気持ちもあったかもしれない。
しかし、この年でサンタの存在を信じていられるほど、夢見がちでもないと跡部は思う。

「お前、14にもなって、まだサンタクロースの存在を信じてるのか?」
「何言ってんだよ、跡部。サンタクロースは実際、いるだぜ?」

嬉々と言う神尾に、跡部は思わず"はぁ?"と間抜けな声を出してしまった。
しかしいくら神尾とは、少し冷静に考えてみれば、中学2年にもなって、サンタがいるなんていうはずがない。
そう結論付けた跡部の頭に、一つの事が浮かんだ。

「それは資格を持っている、公認サンタクロースの事を言ってんのか?」

長老サンタクロースのお手伝い役として、グリーンランド国際サンタクロース協会が認定したのが公認サンタクロースである。
日本にも公認されたサンタクロースがおり、世界中には180人ほどの公認サンタクロースがいる。

「公認?なんだよ、それ」

初耳だと言わんばかりの神尾に、跡部は首をかしげた。

「じゃあ、てめぇは何を根拠にサンタがいるって言ってんだ?」
「だって俺、ヨンタクロースと電話で会話した事があるんだぜ?」
「ヨンタクロース?」

まるでギャグのような言葉に、跡部が思わず聞き返す。

「そもそもヨンタクロースってなんだ?」
「あれ?跡部も知らねぇの?サンタクロースのお手伝いをしているんだぜ」

始めは、自分がからかわれているのかと思ったが、どうやら神尾は冗談で言っているわけではないらしい。
それに気づいた跡部は、もう少し詳しく聞きだす必要があると思い、神尾に質問をし続ける。

「おい、神尾。それはいつの話だ?」
「俺が小学校の時。深司が遊びに来てて、席を外してる時にいきなり電話がかかってきてよ。それがヨンタクロースからだったんだよ」

んな、バカな…。

それが跡部の正直な感想であった。
いくらなんでも、サンタクロースが存在するわけがない。
ましてヨンタクロースなど、初めて聞いた言葉だ。
しかし、実際に神尾は電話でヨンタクロースなる人物を会話をしているらしい。
それは紛れも無い事実だと、認めるしかなかった。

だが真実は違った。
あまりにも真剣にサンタクロースの存在を信じていた神尾に、伊武が神尾宅の電話で、内線機能を使って電話したのだった。
しかも、サンタクロースとなのるのには抵抗があり、ちょっと考えて名乗った名前がヨンタクロースだったのだ。
それを未だに(サンタクロース以上に存在するはずがないのだが)本当のヨンタクロースだと思い込んでいるのである。

「跡部のところにも、サンタクロース、来てくれるといいな」

凄く真面目な顔で言われ、跡部はそれに頷く事しかなかった。






モドル






もし、1日だけ別の誰かになれるのであれば…

「なぁなぁ、跡部。もし、1日だけ別の誰かになれるとしたら、お前は誰になる?」

本を読んでいると、突然神尾がそんな事を言ってきた。

「あぁ?何言ってんだ?」
「いや、だからもしも話?」

神尾の唐突などはいつもの事で、軽く流してやろうかと思ったが、暇だったから、話に乗る事にした。

「そうだな、とりあえずお前以外の人間だな」
「えっ、なんでだよ?」
「俺がお前みたいに『リズムに乗るぜ!』とか言ったら、他の奴らが俺様に酔うからな」
「うわー、さすが俺様。考える事が違うな…」

折角話に乗ってやったと言うのに、神尾は飽きれた顔をして呟いた。

「なら、お前は誰になるんだよ」
「えっ?お前?」
「なんで、語尾が上がる。理由を言ってみろよ」
「いや、だってよう。お前になれば、少しはお前の見てる世界が分かるかもしれねえじゃん」

いつもと同じ顔で、神尾はそんな事を言った。

「俺の見てる世界を知って、お前はどうするんだよ」
「うーん、参考にする」
「何を」
「色々とだよ」

神尾の頭ではそれ以上の言葉が見つからなかったのか、やや無理矢理答えたようだった。

「っうか、そんな事を考えるだけ無駄だろ」
「なんでだよ」
「俺は俺で、お前はお前だから人生は意義があるんだからよ」

そう言えば、神尾は少しうなりつつも、こくりと頷いた。

「だよな。俺、俺のままでいいや」
「いいやじゃねえだろ。大体なんで、"もしも話"をしなきゃならねえんだよ」
「いや、気分?」
「気分ってな…」

あまりにも神尾らしい答えに、俺はため息を漏らすしかなかった。






モドル