"Trick or Treat" |
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その日、俺は神尾と映画に行く約束をしていた。 そして丁度俺は近くで用事があり、その足で待ち合わせの場所へ向った。 俺が少し早く着いてしまった為にまだ神尾の姿は無く、俺は読みかけだった本を開いて時間を潰す事にした。 「トリック・オア・トリート」 突如、俺の後ろからそんな言葉がした。 振り向けば、オレンジかぼちゃの缶を持った神尾が立っていた。 「ああん?何してんだ、てめぇは」 「だからトリック・オア・トリートだって。今日はハロウィンだろ?」 確かに今日は10月31日、ハロウィンには間違いない。 しかし、それとこれがどういった関係があるというのだ? そう思っていると、神尾は俺に向って手を差し出してきた。 「お菓子くれなきゃ、イタズラするぜ?」 悪巧みをしているガキのような笑顔で、神尾が言う。 そのお陰でこいつが何をしたいのか、大体予想がついた。 そもそも、ハロウィンは秋の収穫を祝い、悪霊などを追い払う祭りだ。 アメリカではかぼちゃをくりぬいて作ったかぼちゃランタンを飾り、夜には子供達が怪物などの仮装をして、近所の家を回っては"Trick or treat"と言って、お菓子をもらったりしている。そしてお菓子をもらえなかった場合、子供達はその仕返しに悪戯をするわけだが、どうやら神尾はそれがしたいようだ。 こいつと違い、俺は普段からお菓子なんかを持ち歩いていない。 だからこいつにお菓子を与えられず、神尾は堂々と俺に悪戯が出来ると言うわけだ。 なんとも、神尾らしい考えだ。というか、ガキだな。 俺はジャケットのポケットに手を入れ、中に入れてあったある物を掴むと、神尾の手の上に乗せた。少し骨ばった手に乗せたのは、1粒のミルクキャラメル。 それを見て、神尾の顔がぱっと明るくなった。 「おっ、キャラメルじゃん。俺、これ好きなんだよな~」 そう言って、嬉しそうに紙包みをはがし、キャラメルを口の中に放り込むと、美味そうに食べた。しかし何かに気付いたらしく"あれ?"と言う顔で俺に向き直った。 「って、何でキャラメルなんて持ってるんだよぅ」 「菓子が欲しかったんだろ?」 俺の言葉に神尾は一瞬、首を振りそうになったが、実際お菓子が貰えて嬉しかったのも事実らしく、ちょっと悔しそうに俺の顔を睨んだ。 「違っ…くはないけど、いつもは持ってねぇじゃん。なのに、何で今日に限って持ってるのかを聞いてるんだ!」 「てめぇを待ってる時に、魔女の格好をした女の子に貰ったんだよ。"トリック・オア・トリート"って言いながら、配っててな」 「っうか、それって逆じゃねぇ?」 神尾から、もっともなツッコミが入る。 まぁ、それは俺も思ったけどな。 「ガキだから、どっちでもいいんだろ」 「そっか」 なぜ俺がキャラメルを持っていたかの謎は解けたものの、神尾は少し悔しそうに"ちぇ…"と呟いた。 「で、てめぇのその左手に持っているのは何だ?」 「えっと…ランタン・オー・ジャック?」 たどたどしい口調で言うが、見事に間違っている。 「バカ、逆だ。ジャック・オー・ランタンだ」 「そう、それ。分かってんじゃんかよ」 バカと言われたのがムカついたのか、神尾は"なら聞くなよな"と、ぼやいた。 「それ位は分かって当然だ。俺が言ってるのは、なんでそんな物を持っているのかって、聞いてるんだ」 神尾にも分かるように言ってやると、納得したように頷いた。 「あぁ、そう言う事か。昨日、ゲーセンでゲットしたんだ。中には飴とチョコが入っててよ」 そう言って、ふたをカポッと取ると、中を見せてきた。 確かに、片手に乗る程度の大きさの缶の中には、セロハンに包まれた飴やチョコが入っていた。だが、それを取ったのが昨日なら、なぜ今ここにあるんだ? 「お前、俺にわざわざ自慢したくて持ってきたのか?」 俺がそう言うと、図星だったらしく神尾は"うっ…"と小さく唸った。 「いいだろ!それ位したってよ。跡部は取れるのか?UFOキャッチャーで」 「んな物、取れるに決まってるだろう。俺を誰だと思ってんだ?」 神尾に出来て、俺に出来ないものがあるわけねぇだろうが。 「言ったな!じゃあ、試しに取ってみろよ!!」 俺の言葉に、神尾がびしっと人を指差して言う。 「あぁ、いいぜ。いくつでもとってやるよ」 「じゃあ、あそこのゲーセン行こうぜ」 こうして、俺と神尾は近くのゲームセンターに行くことにした。 「じゃあ、これでいいかな」 店内をぐるりを回り、めぼしい景品のあるUFOキャッチャーで、試みることにした。 財布から100円玉を取り出し、投入する。 とりあえず、あの中央にあるやつでいいか。 俺は狙いを定めた景品に向かい、UFOキャッチャーを動かした。 「あぁー、行き過ぎだって」 脇から、神尾の奴が口を挟んできた。 「うるせぇ。これでいいんだ!」 思わず、神尾の顔を見て言い返してしまった。 しまった! そう思ったときには、既に後の祭りで、狙いをつけていた景品の上を通過し、UFOキャッチャーは、一番奥まで行くと止まった。 その後は自動的に真下に下り、景品を掴む事なく、始めのポジションに戻ってきた。 「だから言ったろ?行き過ぎだって」 「バカ!てめぇが何も言わなかったら、取れてたんだよ」 「俺の所為かよ。自分が下手なのがいけねぇんだろう!」 「なら、てめぇは取れるのか?」 「当たり前だろ!これだって、俺が取ったんだぜ」 そう言って、鞄の中からジャック・オー・ランタンを出して主張する。 「はっ、んな事わからねぇだろ。俺は、お前がそれを取ったところを見てねぇんだからな」 俺の一言にカチンときたのか、神尾は鞄から財布を取り出すと、100円玉を取り出して俺に見せるようにかざした。 「見てろよ」 そうして、神尾はUFOキャッチャーに向き直った。 数時間後 「なぁ、跡部」 先にコースアウトした神尾が、ふと俺に声を掛けてきた。 「あぁ?何だ」 「俺達さ、今日は映画を見に行くんじゃなかったっけ?」 神尾に言われ、確かに今日の予定は映画にいくはずだったと思い出し、頷き返す。 「あぁ、そうだったな」 「もう夕方だぜ?」 結局、UFOキャッチャーで景品の数を競い、その後色々なゲームで対決をしているうちに、時計は既に夕暮れ時を指していた。 今から映画に行ってもいいが、それはただ帰りが遅れるだけだ。 その上、ゲームに結構な金をつぎ込んだから、神尾の財布の中身もヤバイはずだ。 「仕方ねぇ、帰るか」 そう神尾に言うと、少し残念そうな顔をしながら、鞄に今まで取った景品を詰め込んだ。 かくして、俺たちは数時間いたゲームセンターをあとにした。 店を出ると、空は茜色に染まりだしていた。 「なんか、凄い無駄使いした気がする」 財布の中身が気になるらしく、ポケットから財布と取り出して中を覗いている。 「仕方ねぇだろ。てめぇが、俺様に挑んできたのが悪い」 「俺の所為かよ。もともとは、跡部がUFOキャッチャーにむきになったのが原因だろ」 「ああん?俺が悪いって言うのか?」 そう言って神尾を睨みつけると、神尾も睨み返してきた。 しばし睨み合っていると、お互いどちらからという訳ではなく笑いがこみ上げてきた。 「なんか、バカみたいだな。俺たち」 「あぁ、そうだな」 始まりは、今日がハロウィンだったという事なのに、妙にゲームにむきになったり、予定していた映画をキャンセルしたり、なんとも変な一日だ。 「おい、神尾。飴持ってるんだろ?1つよこせ」 そう言って手を出すと、神尾はしぶしぶと言った顔で、ジャック・オー・ランタンの缶の中から飴を2つ出し、1つを俺の手の上に乗せた。 「でもさ、楽しかったよな」 「あぁ」 たまには、こうやって突拍子も無い一日を過ごすのもいいのかもしれない。 そう思いつつ、俺たちは帰路についた。 |
END |