家族旅行
休憩を取りつつ車を走らせる事、2時間。
俺達4人を乗せた車は、今日泊まる事となっている温泉町に着いた。
姉ちゃんが来ないお陰で、今回は家族旅行にも関わらず、跡部も一緒だ。
今思えば、跡部と俺の両親は今まで面識が無い。
跡部が俺の家に来るのも、母さんがいない日だし、俺が跡部の家に行く方が確率的にも多いからだ。さすがに、俺の彼氏ですとは紹介は出来ないが、それでもやっぱり会わせておきたいと思ってたしな。

「先に、旅館にチェックインを済ましてしまおう」

父さんの提案で、宿に直行した。
車から自分の荷物を持っており、泊まる旅館を眺めた。

「なんか、雰囲気のいいところだな」
「ほぉー。お前にも分かるのか?」
「それぐらい分かるに決まってるだろ?」

からかい混じりの跡部の声に、反論する。
決して新しい建物ではないが、それが町の雰囲気にあっている。
そりゃ、豪華なホテルには憧れるけど、家族旅行で泊まるならこういった落ち着ける、和やかな旅館の方が俺は好きだ。
まぁ、俺の脇にいる跡部は、ちょっと馴染みがないかもしれないけどな。

「跡部ってさ、畳の上に布団敷いて寝た事ってあるのか?」

ちょっと疑問に思い、思わず聞いてみた。

「一応な」
「なんか、意外だな」
「そうか?」

跡部の言葉に頷く。
俺も自宅はベッドだけど、畳の上に布団を敷いて寝るのは、嫌いではない。
皆で布団を並べれば、修学旅行や合宿みたいだしな。
そうだ。今晩、枕投げしようって言ったら、跡部のやつ怒るかな?

「枕投げなんて、低俗な事はしないからな」
「えっ!?なんで、俺の考えてた事わかったんだよ」
「お前の考える事なんざ、全てお見通しだ」

ちぇ…。どうせ、俺は分かりやすい人間ですよ。
だけど、自分で言う前に言われるのって、結構悔しいな。

「おい、そう言えば…」

跡部が俺に何か言いかけたが、それは俺たちを呼ぶ父さんの声で中断された。

「何?跡部」
「あぁ、別になんでもない」

そう言って、跡部は先に父さんたちの方へ行ってしまったから、俺は急いで後を追った。



今回、部屋は二人部屋を二室取っていた。
家族旅行なんだから、四人部屋を一室取ればいいかもしれないと、俺は思うんだけど、やっぱり姉ちゃんもお年頃だからと言うわけで、二室取ったのだ。
当然、部屋割りは父さんと母さん、俺と跡部と言う事になる。

「じゃあ、この後はお前たちは好きに行動しなさい。その方がいいだろうからね」

そう言って、父さん達と部屋の前で別れた。と言っても、部屋は隣なんだけどさ。
部屋に入って、まずは窓に近寄る。
この旅館が少し高台にあるお陰で、町がよく見渡せる。

「なぁ、早速温泉に入ってみようぜ」

丁度腰を下ろした跡部に言うと、"やっぱりな"って感じの顔をされた。
だけど特に文句も言われず、了解してくれた。
そうと決まれば、温泉にいく準備だ。
折角だから、俺たちは部屋に置いてある浴衣に着替える事にした。
その方が荷物も少ないし、温泉街という雰囲気が出る。
タオルと洗面具を持って、俺たちは外に向かった。

靴の変わりに、玄関においてある下駄を借りる。
歩くたびに、カランコロンと、心地よい下駄の音が響く。
下駄を履くのは久しぶりだと思う。
以前は田舎のばあちゃんが浴衣を縫ってくれたから、それを着てよく夏祭りに行っていた。
その時に下駄を履くんだけど、リズムに乗ろうとすると慣れない所為でがぐんっと足にきてしまい、よく転んだ。
昔の事を思い出し、俺はくすくすと笑ってしまった。

「いきなり笑い出して、どうしたんだ?」

跡部が、眉間にしわを寄せて言う。
俺は"別に"と言ってごまかした。
少し行くと、温泉に辿り付いた。

「ここでいいか?」
「あぁ、いいぜ」

男湯の戸をくぐり、中に入ると硫黄の香りが鼻についた。
主成分が硫黄だと言うことは、歩いて気が付いていたが、やっぱり温泉は特にキツイ。
なんか、理科の実験を思い出す。
下駄を簡単な棚に置き、中に入る。銭湯のように、脱衣場と風呂場が分かれているのではなく、壁に棚があり、すぐ脇が風呂場になっている。
足場はすのこが敷いてあり、濡れたまま上がっても平気なようになっている。
なんて言うか、さすがにちょっと驚いた。多分、俺以上に跡部は驚いているだろう。

「取り合えず、奥に行くか?」

手前だと人が入ってきた際に邪魔になるから、奥まで行く。
棚においてあるカゴに、一旦タオルを入れた。

「なんか、凄いな」
「あぁ」

着ていた浴衣を脱ぎ、浴槽に近づく。濁りの無い透明な温泉だ。
脇に置いてあった手桶を手にし、お湯を汲んで肩から掛ける。
お湯加減も丁度いい。
急いで体と髪を洗い、湯につかる事にした。

「あ~、極楽極楽」
「てめぇは、どこの年寄りだよ」

俺を見て、跡部が少しバカにしたように言ってた。

「いいんだよ。本当に気持ちいいんだからよ」

そう言って俺は返したが、ふと、跡部が脇を見ている事に気が付いた。
跡部が見ているのは、隣の浴槽だ。面白い事に、ここは浴槽は2つ並んでいるのだ。
跡部は隣の湯に手を入れた。

「浴槽によって、温度が違うみたいだな」

跡部の言葉に、自分も続いて湯にふれる。
確かに、今入っているこの温泉より少し熱めだ。

「本当だ。なんか、面白いな」
「あぁ」

その後、俺たちは十分に湯につかり、温泉を後にした。

「気持ちよかったな」

下駄をカランコロン鳴らせながら、跡部に言う。
跡部も満足したみたいで、機嫌がよさそうだ。
夏だから、濡れた髪もタオルで軽く拭くだけで、後は自然乾燥出来る。
夕飯まではまだ時間もあるだろうからと、俺たちはお土産物を見に行く事にした。





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