跡部×神尾の7つのお題
1.年の差【神尾視点】
別にあと1年早く生まれればよかったなんて言うつもりはない。
それでも一生埋まる事の無い1年と言う年の差を、恨めしく思った事は数知れない。
たった1つ学年が違うだけで、世間の扱いが違う。ものの考え方も、生きてきた時間も。
でもそれは仕方が無い。時間を遡る事なんて出来ないし、過去を換える事も出来ないからだ。
だから俺はその年の差を楽しむ事にした。

「今月、俺ピンチなんだよな」
ぼそっと呟くように言うと、跡部はすぐさま眉間にしわを寄せて俺の顔を見てきた。
それは俺の期待通りで、俺は心の中で小さくガッツポーズをした。
「あぁ?俺に奢れって言うのか?」
「ほら、跡部の方が年上じゃん?だからさ」
そう言ってにこっと笑えば、跡部はしぶしぶといった風に財布を取り出した。
勿論、俺と違って跡部は大分財布のゆとりがあるから、この態度はわざとだろう。
「ちっ、仕方ねぇな」
「サンキュウな」

ちょっと悔しい年の差だけど、逆に利用するのもたまには悪くないと思う、今日この頃だったりする。


2.10cm【跡部視点】
俺は人と深く関わる事があまり好きではない。
笑って適当に受け答えをしていれば、相手に自分の領域に踏み込まれる事はない。
この15年間、ずっとそうして生きてきた。
他人との距離は10cmが丁度良いと思っていた。
だがそれを打ち破った奴がいた。
10cmの距離をゼロにする事が出来る相手。
それは不思議な事に俺と同じ男で、俺より1つ学年が下の、うるさいガキだった。
正直、最初の出会いはお世辞にも"良い思い出"では無いと思う。
だが次に会った時のあいつの態度が、俺は気に入った。
この俺にひるまずに、挑んできたあの目。
あの時から、いや初めて出会った時から俺はこいつに惹かれていたのだと思う。
そんな事を言おうものなら、こいつは図に乗るから絶対言わないがな。

「おい神尾。お前、今身長いくつだ?」
ふと気になって聞いて見れば、神尾は165だと答えた。
「跡部はいくつだよ?」
「お前より10cm上だ」
そう答えれば、神尾は悔しそうに頬を膨らませてむくれた。
その態度はガキそのものだが、こいつらしいとも思う。
「まぁ、これから成長期でもっと伸びるだろうから心配すんなって」
そういってぽんぽんと頭を軽く叩けば、神尾は"そうだよな"と言って嬉しそうに笑った。
「まぁ、俺もまだ伸びるけどな」
俺の言葉に神尾は"そうだった"という顔をした。
「マジかよ。じゃあ俺は牛乳一杯飲んで、とっとと跡部の身長追い越さねぇとな」
なんとも典型的な考えに思わず笑ったが、やはりこいつらしいと納得した。

俺は自分にも他人にも甘くしてやるつもりなんてねぇからな。
だからてめぇも、早く俺に追いつけよ。心の距離を10cmから0cmに変えたように。


3.お子様【神尾視点】
何気ない会話を交わしている時、跡部は俺の事をよく"お子様"と言う。
確かに跡部より1つ下だが、だからと言って中学2年生の俺を捕まえて"お子様"は無いだろう。

「苦い…」
跡部の飲んでいた缶コーヒーを少し口に含んだら、コーヒー独特の苦味が口内に充満した。跡部曰く、これは甘い方に分類されるらしいが、俺にとってはブラックと大した差は無かった。
口直しに自分の炭酸ジュースに口をつけると、ぱちぱちと炭酸の泡が弾けた。
「ふー、生き返った」
そう言って息をつけば、跡部は小ばかにしたような笑みで、俺の事を見下ろした。
「コーヒーも飲めないなんて、てめぇは本当にお子様だな」
「どうせ俺はお子様ですよ」
こんな苦いものを飲まされるくらいなら、"お子様"と呼ばれた方がまだマシだと思うのは俺だけではないはずだ。


4.美技酔狂【跡部視点】
キッチンの方からは、神尾の機嫌よさそうな鼻歌が聞こえてくる。
俺は手にしてる雑誌から顔を上げて壁にかかっている時計に目をやると、小さくため息をついた。
「神尾、まだ出来ないのか?」
「もうすぐ出来るから、大人しく待ってろよ」
"お前じゃあるまいし、騒いでねぇよ"と言ってやろうかと思ったが、それも大人気ないと思い俺は口を閉じた。
神尾が美味しいものを作ってやるからと言い出してから早30分。
その"美味しいもの"が何かを神尾は言わないから、俺は神尾が何を作っているのか知らない。
全く、どこで仕入れてきた知識かわからないが、作るんなんらとっとと作れとよな。
そんな事を思っていると、キッチンから神尾の嬉しそうな"出来たー!"という声が上がった。
「じゃーん!神尾アキラ特製茶碗蒸しスペシャル」
そう言って俺の目の前に出されたのは、中央にちょこんと三つ葉が乗った茶碗蒸しだった。
「よく出来てるだろ?」
俺が口をはさむ隙を与えずに、神尾は茶碗蒸しの説明を始めた。
鶏肉、銀杏、しいたけ、海老、かまぼこに三つ葉。かまぼこは飾り切りをしてあるらしく、会心の出来だと嬉しそうにしている。
「まっ、跡部にはマネ出来ないだろうけどな。俺の方が料理上手いし」
そう言って神尾は誇らしげに笑った。
そんな神尾を見て、普段俺に自分に酔ってナルシストだなんて言ってるが、自分こそ酔ってるじゃねぇかよと心の中で呟いた。
「はっ。茶碗蒸しが作れる位で自分に酔ってんじゃねぇよ」
そう言いつつも、神尾の作った茶碗蒸しが美味しかったのは、否定しようが無い事実だった。


5.狂ったリズム【神尾視点】
跡部と肩を並べて歩くと、決まって早歩きになってしまう。
それは身長による足のリーチの差なのか、それとも跡部が故意に大またで歩いているのか、俺にはわからない。
でもそれで後れを取るのはどうしても嫌で、俺は早く歩く事でその差を縮めていた。
「少しはこっちの事も考えろよな」
ぼそっと呟くように言えば、跡部はその言葉をしっかり聞き取ったようで"何の事だ?"と聞き返してきた。
「別に何でもねぇよ」
そう答えれば、跡部は再び前を向いて歩き出した。

ったく、どうして跡部と一緒にいると俺のリズムは狂うのだろうか。
悔しい事に隣にいるこいつは、いつも自分のリズムを刻んでいる。
俺と違い、跡部は物事に動じる事はあまり無い。
だからこそ、それが物凄く悔しいのだ。
だからいつか跡部のリズムを狂わせてやると、俺は心に誓ったのだった。


6.似たもの同士【伊武視点】
「あれ、跡部さんじゃないの?」
そう言って門の所に立っている男を指差せば、隣に並んで歩いていた神尾は一瞬にして顔を引きつらせた。
あぁ、そう言えば昨日ケンカしたって、今朝言ってたっけ。
もしかして、跡部さんが先に折れたわけ?
それにしては神尾の態度が微妙だし、まだ怒ってはいるみたいだね。
一方、神尾も折れるつもりは無いらしく俺の腕を掴んだ。
「深司、行こうぜ」
わざと跡部さんの目の前で言うと、俺の手を引いて歩こうとしたが、それはすぐに跡部さんの手によって阻止された。
「何すんだよ、跡部」
「あぁ?俺の事を無視しといてその台詞はねぇだろ」
「それを言うなら跡部だって。この間俺の事無視した挙句"居たのか?"って言ったじゃんかよ」
「アレは本当に気付かなかったんだ」
「嘘ついてんじゃねぇよ!」
ケンカしているはずなのに、気付けば神尾は跡部さんと歩きながら口論していた。
本当にケンカしているのか、ただじゃれあっているのかわからないよね。
容姿・性格・年齢・テニスのプレイスタイルも全く違くて、共通点らしい共通点はテニスだ。
それなのにあの2人の間には、彼ら特有の雰囲気がある。
「本当に似たもの同士だよね」
勿論、それに気付いていないのは本人達だけだけど。


7.ライバル【跡部視点】
人生を楽しんで過ごすためには、自分と競い合う"ライバル"という存在が必要不可欠だと、俺は常日頃からそう思っている。
人は他人と競い合う事で自分を磨き、向上心を高める。
だからこそ自分と対等に渡り合う"ライバル"が必要なのだ。
ちなみに俺の自称ライバルは、目の前で四苦八苦しながら問題を問いている神尾だ。
明日試験があるという教科を教えてやっているんだが、神尾は終始眉間にしわを寄せて問題を見つめている。
「それでよく、俺様のライバルだって言えるよな」
そう一言言ってやれば、神尾の目は問題容姿から俺にへと移った。
「勉強とテニスを一緒にすんなのよ。仕方ねぇじゃん、苦手なんだからよぅ」
本当に苦手らしく、いつもの強気な態度は影を潜めている。
ったく、自称ライバルが聞いて呆れるな。
「おい、どこがわからないんだ。優しい俺様が教えてやるよ」
「えっと、こことここ。あとここ」
そう言って神尾が指差し場所は問題の殆どで、俺は小さくため息をついた。
俺のライバルだというのなら、せめて俺のレベルまで追いつけよな。





モドル