ライクとラブ
like
【動】…が好きである,…を好む,…が気に入る
【前】…に似た,…のように,…らしい
【形】似た,類似の
【接】…のように

love
【名】愛,愛情,恋愛,強い好み,恋人,(テニスのスコアで)零点、ラブ
【動】…を愛する,…が大好きである

改めて辞書で引いてみると、色々な意味があるのだとなんとなく感心してしまう。
だがそれと同時に、ノートに挟んだ歌詞カードを見てため息をついてしまうのは、当然の事だと思う。

先日、跡部の家でかけていたCDの歌詞カード。
1曲だけ他と雰囲気が違うから、跡部に歌詞の意味を聞こうとしたら"優しい俺様が1週間だけ貸してやるから、自分で調べてこい"と言われた。
どこが優しいんだと問えば"お前の苦手な英語の勉強になるだろう"と言われた。
確かに英語は苦手だけど、だからと言ってこれはムカつく。

取り合えず、手近にあったルーズリーフに英語の歌詞を写し、その脇に訳を書いてみようと思ったが、それがいまいちよく進まない。

俺、訳って苦手なんだよな。

そう思いつつ、再び英和辞典に手を伸ばし、ぱらぱらとめくっていく。
普段、学校の宿題でもここまでは活用しないだろうというほど、辞書を活用している。その事に自分でも驚きつつ、半ば意地だよなと思う。

個々の単語の意味はわかるのに、それをいざ文にしようとするとうまくいかない。
正直、文法ってなんだよといいたくなる。

そんな事を思っていると机の上に影が差し、目の前に深司が立っている事に気が付いた。

「何してんの?神尾」
「翻訳?」
「なんで疑問系なわけ?」

冷静なツッコミを入れてくる深司に、俺はあははっと笑った。
そして無言で手にしていたルーズリーフを見せた。

「洋楽の歌詞?」
「うん、そう」
「珍しいね、神尾が洋楽の歌詞を日本訳するなんて」

そりゃ、そうだよな。
元々英語が得意ってわけじゃないもんな。
それに大抵は日本訳が載っているCDを買うし。

「で、どこまで訳せたの?」

ルーズリーフから俺に視線を移し、深司が言う。
最も言われたくない言葉に、俺は深司から視線をずらした。
それで悟ったのか、深司が隠しもせずにため息をついた。

「やっぱりね」
「悪かったな。予想通りで」
「まぁ、神尾だしね」

そういうと、俺の手からルーズリーフを取り、深司はその歌詞に集中した。
俺よりも深司の方が英語の成績は上だし、きっと深司の頭の中ではまともな日本訳になっているだろう。

しばらくして、深司は俺にルーズリーフを返してきた。

「なんか、神尾みたいだよね。この歌詞」
「はぁ?どこが」

訳が全く進んでいない俺には、どこが俺っぽいのかわからず、普通に聞き返してから"ここ"と指差されてもわからない事に気付いた。
しかし深司もそれをわかっているからか、あえて例をあげるのではなく、かなり抽象的な言葉で返してきた。

「まぁ、あえて言うなら、ライクとラブの違いが分からない感じかな」
「えっ、これってそう言う歌詞なのか?」

思わずそう問えば、深司は本当に呆れた顔をした。

「やっぱり神尾ってバカだよね。わかっていた事だけどさ」

勝手に納得する深司に、俺は上手く日本訳する事ができない苛立ちから、自然と不機嫌な顔で深司から視線をそらした。
そんな俺に対し、深司は大して気にしていないのか、反論はしてこなかった。
しかし…。

「どうでもいいけどさ、そこのスペル間違ってるよ」
「えっ?どこ」

すらりと長い指で指された所を歌詞カードと照らし合わせて見たら、確かに間違っていた。

「Liveじゃ、全く違う歌になるよ、それ」

やはり呆れたようにいう深司に、俺は頭があがらなかった。

「やっぱり、素直に言うかな…」
「何を?」
「これ、跡部のCDのなんだよ。だから歌詞の意味教えてくれって。一度断られたんだけどさ」

正直、あの跡部が一度断った事を素直に教えてくれるとは思わないけど、いつまで考えていても、わからないものは仕方がないと思う。
あと3日で、これを借りて1週間が経つしな。

「これ、跡部さんのなの?」

意外そうにいう深司に、俺は頷き返した。
そんな俺の反応に対し、深司は何か思いついたように、にやりと笑った。

げっ…。マズイ。

深司の笑みをみて、嫌な胸騒ぎがした。
いつもはクールな深司だけど、こういう風ににやりと笑う時、いつもよくない事が起こるのだ。

「神尾、ちょっと携帯電話貸して」
「えっ?なんでだよ…」
「いいから。早く」

深司の気迫に押され、俺は言われるまま制服のポケットに入れておいた携帯電話を深司に手渡した。
深司はしばらくカタカタと文字を打ち、パタンと携帯電話の画面を閉じた。

「保存メールにしておいたから、後でこれを跡部さんに送ってみな」
「え?」

言われた意味がわからなくて、メールを見ようとしたら、深司に止められた。

「今見たら意味ないから、神尾は頑張ってそれを自力で訳してからね」

深司のその言葉に"いや、無理だし"と言いたかったが、こういう時の深司のしつこさは嫌ってほどわかっているつもりだ。

「りょっ、了解」

なんとかそれだけ言うと、深司は満足そうに頷いた。

「なら、頑張って訳してね。それ」

勿論指差されたものは、俺が写した歌詞のルーズリーフ。
俺は大きなため息をつくと、再び辞書に手を伸ばした。
そんな俺の姿を確認すると、深司は自分の席に戻っていった。

「ライクとラブの違いか…」

ふと深司が口にした言葉を言ってみると、俺の気持ちはどっちなのだろうかと疑問に思えてきた。それは俺だけでなく、跡部自身の気持ちもだが。

「いいや、メールしちゃえ」

考え始めるときちんと答えがまとまらない気がしたから、俺は素直に跡部に今の気持ちをメールした。
送信した事を確認すると、俺は携帯電話をポケットにしまい辞書に視線を移した。



数分後、跡部から返信が返ってきた。
しかしその内容にキレ、途中まで訳していた紙をくしゃくしゃにしてしまった俺は、その事に激しく凹んだのだった。



END





モドル