ハロウィン
カタカタとOSを弄る音だけが響く作業室。
そこにはミゲルとラスティの二人が、作業を行っていた。

「そう言えばさ、ミゲル、知ってる?」

じっと作業をしているのに飽きたのか、ラスティはミゲルに声を掛ける。

「あぁ、何がだ?」
「今日って、お祭りなんだよ。ハロウィンって言う」
「へぇ~、それは知らないな。で、一体何をするんだ?」
「元々は、秋の収穫を祝い悪霊を追い出す祭りなんだけど、ある国では、子供たちが仮装して、近所の家を回るんだって。そこで"Trick or treat"って言うんだ。つまり、"お菓子をくれないと、悪戯をするぞ"って意味で、子供たちにお菓子をあげるだって」

ラスティに一通りの説明を受け、"へぇ~"といいつつ納得するミゲル。

前々から思っていたことだが、ラスティの雑学は一体どこから仕入れてくるのかと言うほど、幅が広い。この間は、紅茶の歴史について語ったし、その前はサボテンについての話を聞いた気がする。
一見すると何事にも手を抜いているように見えるののだが、自分の好きな事に関しては別らしい。

「なんか、お前が好きそうな祭りだな」
「そう?」

ミゲルの言葉に、"どうせ、俺は甘いもの好きですよ"と答えると、ラスティは一時中断していた作業に戻ろうとした。

「ラスティ」
「うん?何」

くるりと椅子を回転させ、ミゲルに視線を移す。
そこには、妙に機嫌の良いミゲルがいた。

「"Trick or treat"」
「えっ!?」
「だから"Trick or treat"だって。お菓子を貰えないと、悪戯していいんだろ?」

そう言って、じりじりとにじり寄ってくる。

「いや、ほら今は何も持ってないし」
「"Trick or treat"」

そう言って、ミゲルが楽しそうに笑った。
ラスティ自身、悪戯をするのは好きだが、悪戯されるのは嫌いだ。
しかも、相手がミゲルという事は、容赦ない悪戯をするに決まっている。
つまり、このままお菓子をあげないでいると、悪戯をされるわけだが、今は作業中という事もあり、生憎お菓子は持ち合わせていない。

「うっ…」

万事休すと思った時、ラスティは声を上げた。

「あっ!」

何か思いついたらしく、自分に近づいてきていたミゲルを、ぐいっと引き寄せる。
そしてミゲルの唇に自分の唇を合わせると、口の中に残っていた飴玉を、押し込んだ。

「どう?美味しいっしょ?」

満足げに笑うラスティに対し、やられたと言う顔をするミゲル。

「まぁ、確かに美味しいですよ」

口の中に広がるイチゴミルクの味。
香りだけでも甘く、いかにもラスティが舐めそうな飴だと、ミゲルは思った。

「でしょ?ねぇ、ミゲル」
「あぁ?」
「"Trick or treat"」

先ほど、ミゲルが言った言葉を、同じく言い返す。
ミゲルもラスティの意味が分かったようで、にやりと笑った。

「ハロウィンって、美味しい祭りだな」
「だね」

そう言って、ミゲルの首に手を絡めた。

モドル


ファッション?
ここはアークエンジェル級二番艦"ドミニオン"の一室。ブルーコスモスの盟主-ムルタ・アズラエルの自室として使用されている部屋である。
アズラエルはどこから運び込んだのか分からない、少し豪華な椅子にどかっと座り、目の前の三人-オルガ・クロト・シャニ-を見つめる。

「そういう訳で、ちゃちゃっとやっちゃって下さいね」

どうやら、今後の彼らの作戦について話をしていたようだ。

「何か、質問でもありますか?」

アズラエルの声に、オルガが挙手する。

「なんですか、オルガ」
「なんで、眼鏡なんてかけてんだよ」

そう言って、アズラエルの顔を指差した。
そこには、いつもはないシルバーフレーム眼鏡が…。

「どうです?似合ってるでしょう?」

自慢げに眼鏡に手を添えるアズラエル。

「ダサイ」
「ウザ~イ」

間髪を入れず、クロトとシャニが言う。

「なっ…。これのどこがダサいと言うんです?これは、とある有名デザイナーの方を脅して僕の為に作らせた、世界に一個しかない代物なんですよ」
「そんなの、誰も聞いてないし」

一生懸命、この眼鏡の素晴らしさを言うアズラエルだが、クロトはそれをも一刀両断していく。しかも一部物騒な発言をしているのに、誰もツッコミを入れない。

「大体、なんでわざわざそんな物、宇宙に持ってきてんだよ」
「いいじゃないですか。そんなのは、私の好きでしょうが」

まぁ、確かにそれはアズラエル氏の好きではある。
しかしこの宇宙で、その眼鏡を掛ける理由は特に見当たらない。
そんな中、ひょいっとアズラエルから眼鏡を奪い、レンズを覗くシャニ。

「っうか、これって老眼鏡?」

……。
シャニの言葉に、その場の空気が10℃下がった。

「なっ、なんて事を言うんですか!?シャニ!」
「違うの?」
「違うに決まってるじゃないですか!」

シャニの手から、奪い取るようにアズラエルは眼鏡を手にする。

「へぇ~。アズラエルさんって、もうそんな年だったんですか?」
「今度からオッサンじゃなくて、オジィって呼んでやろうか?」

クロトとオルガが、冷やかすように、アズラエルに追い討ちをかける。

「あー、君達」
「って言うか、アズラエルって眼鏡フェチ?」
「えっ?そうなの!?」

シャニの言葉に、クロトが驚く。

「ナルシストなだけじゃ、なかったのか?」
「さぁ?だけど自分で、眼鏡掛けてたら世話ないよね。普通、人が掛けてるのをみて、萌えるもんじゃないの?」
「だね」
「だから、ナルなんだろ?」
「「そっか」」

アズラエルの存在などまるで無視し、話を続ける三人。
これに対して、切れたのはもちろんアズラエル本人である。

「いい加減にいないと、お仕置きしますよ!」

アズラエルの怒りの声に、三人は一斉に部屋から退散した。


-数日後-

「おや、アズラエル理事。先日の眼鏡はいかがされたのですか?」
「あぁ、艦長サン。それには、触れないで下さい」

そう言って、ふよふよと半無重力空間を漂って行った。

その後、アズラエルが眼鏡を掛けた姿は、どのクルーにも目撃されていないらしい。
そしてアズラエルの眼鏡が、本当に老眼鏡だったのかどうかは、謎に包まれたままだった。

モドル


幸せ定義1
ドミニオンに搭乗している皆さんに質問です。
あなたにとっての幸せってなんですか?

case.ナタル・バジルール
「幸せだと?そうだな…。(このどうしようもない我侭な上司の下から離れ)アークエンジェルに戻ることだな」

case.フレイ・アールスター
「そんなの決まってるでしょ。A.A(キラの所)に帰る事よ」

だ、そうですが、それに関してアズラエル氏は、どう思われますか?

「お二人とも、同じなんですね。全く、個性に欠けますよ」

そう言って、"ダメダメです"と首を振るアズラエル氏。
ちょっと癇に障ったらしく、バジルール少佐が鋭い目で問い返す。

「では、理事の幸せはどう言った物ですか?」


「僕?そんなの決まってるじゃないか。憎きコーディネーターを、この世から全て消し去った時だよ」

((やっぱり…))

フレイ嬢とバジルール少佐は共に、うんざりといった顔をした。

「それにしてもお二人とも、妙にA.Aにご執心ですネ。ドミニオンのどこに、不満があると言うんです?」

自分には理解できないと言った風に、アズラエル氏が言う。
だが、フレイとバジルール少佐は同時に口を開いた。

「あんたよ」
「あなたがです」
「なっ…」

二人の台詞に言葉を失ったアズラエル氏は、その後2週間は立ち直れなかったらしい。

モドル


幸せ定義2
「君達にとって、幸せってなんですか!?」

突如、現れたアズラエル。
趣味にふける三人を無視し、こんな質問をしてきた。

「こいつら(やオッサン)に邪魔されず、静かな空間で、本を読んでいる時」
「幸せって何?あぁ、心が満たされている事。やっぱり、好きなゲームをしてる時かな?」
「うざ~い。パス。えっ?答えないといけない?(大きくため息)邪魔されずに、好きなだけ眠って、好きな音楽を聴く事」
「で、んな事聞いて、どうすんだよ。オッサン」

一通り質問が済んだところで、オルガがアズラエルに聞き返す。
先日、フレイとナタルにショックな事を言われたアズラエルは、他にも自分への不満があったらどうしようかと思い、念のために彼らにも同じ事を聞いたのだ。

「いえ、気にしなくて結構です。ちょっとした調査ですから」

アズラエルの答えに、クエスチョンマークを頭の上に掲げる三人。
そんな三人を無視し、アズラエルは言葉を続ける。

「あ~、ところで先程から気になっていたんですが…。どうして君達はそんなにくっ付いているんです?」

アズラエルの言う"君達"こと、オルガとクロトに質問する。
ちなみに"そんなにくっ付いて"と言うのは、ソファに座り本を読むオルガに、クロトが背を預けてゲームをしている姿を指している。

「べっ、別に僕の勝手じゃん。どこでゲームしてても」

頬を赤く染めながら言うクロト。
オルガも満更、邪魔と言うわけではないようだ。

「あ~、そうですか。そういう訳ですか」

そんな二人を見て、納得するアズラエル。

「シャニ、ここにいると二人の幸せを邪魔しちゃうみたいですから、僕達は二人で出掛けましょうか。僕達は僕達で、甘い時間を過ごしましょう」

「はぁ?何言ってんの?」

"ウザイし"と言って、アズラエルの手を振り払うシャニ。
しかしアズラエルはそれに屈するでもなく、シャニの手をひく。

「ではお二人はごゆっくりどうぞ」

ひらひらと手を振って出て行くアズラエルと、シャニ。
クロトは、先程以上に顔を真っ赤にし、何か言おうと口をパクパクしている間に、二人は視界から消えた。
そしてクロトとオルガが目を合わせ、嬉しそうに笑いあったのは、また別のお話。

どうやら幸せの形は、人それぞれのようです。 by.Multa Azrel

モドル


料理
「本当に、何もねぇな」

空っぽの冷蔵庫を覗きながら、スティングは呟いた。
ここは、地球連合軍の者達が食事をする食堂の脇にある調理室だ。
もうすぐ夕飯時だと言うのに、なぜか食堂は人の気配がなく、スティング、アウル、ステラの三人しかいない。

「ったく、ネオも本当に適当だよな。こんな大切な事を言わずに、出掛けるなんてよ」

外部に用があると言って、彼らの上司ネオ・ノアロークが外出したのは、今から3時間前の事。上司がいないという事で訓練もなく、各自好きな事をして時間をつぶしていた時、突然、ネオから通信が入ったのだ。

『あぁ、お前らに1つ言い忘れていた事があるんだよな』
「言い忘れた事?なんだよ、それ」
『実は軍の慰安旅行で、調理場のおばちゃんたちがいないんだ』
「慰安旅行だ?」
『あぁ。だからお前達の飯を用意する者がいないんだよ』
「って、おい。それでどうしろていうんだよ」
『まぁ、自分達でなんとかするんだな。じゃあ、またな』

それだけを告げると、ネオはさっさと通信を切ってしまったのだ。
なんとも役に立たない上司である。

「自分達で何とかしろって言われてもな…」
「ネオの奴、僕らにどうしろって言うんだよ。料理なんて出来きるわけんないのにさ」

僕たち、育ち盛りなんだぜと、文句を言うアウル。
その言葉にスティングも頷くが、かといって作る人がいないのでは話にならない。

「仕方ねぇ、今晩の食事は無しだな」

スティングが出した結論に、アウルも頷き返す。

「だな。一食ぐらい抜いても平…」
「お腹空いた」

アウルの言葉をさえぎる様に、ステラが呟いた。

「カレー、食べたい」

そう言って、どこから持ち出したのかわからない、カレーのルーを二人に見せる。
それを見て、スティングは大きくため息をついた。

「どうやら、自分らで作るしかないみてぇだな」

一度言い出したら、何がなんでもそれを突き通そうとするステラの事、カレーが食べれなかったら、ずっとカレーのルーを持ったまま「お腹すいた」「カレー、食べたい」と言い続けるだろう。スティングの本能が、そう告げる。
そしてアウルも、それがわかっているらしく、がこっと下にあるダンボールを引っ張り出し、野菜を並べる。

「じゃあ俺がにんじんで、スティングはジャガイモ、ステラは玉ねぎな」

そう言って、にんじんとピーラーを手にした。

「わかった」
「あいよ」

こうして、彼ら三人のカレー作りが始まった。

とは言ったものの、不満がないわけではない。

「ったくさ、何で僕がにんじんの皮なんて、むかないとならいのさ」

ぶつぶつと文句を言いながら、アウルはピーラーでにんじんの皮をむいている。
ジャガイモのように、凹凸が激しくないので、あっという間に皮はむけたようだが、それでも予定外の事に腹を立てているようだ。
だが、お腹がすいていたのも事実なので、それに甘んじてカレーの準備を進める。
そして、今度はそのにんじんを切ろうと顔を上げると、そこには目に涙を一杯にしているステラの顔があった。

「何、泣いてんだよ!ステラ!?」

あたふたするアウルを見て、ステラが呟く。

「目、痛い…」

そう言って、ごしごしと目をこするが、その手はさっきまで玉ねぎを触っていた為、逆に目にしみるだけだ。
緋色の瞳から、ぼたぼたと涙が零れ落ちる。
それを見かねたスティングが、タオルでステラの目を拭う。

「ったく、何やってんだよ」
「痛い…」

一度目にしみると、中々抜けない物で、尚も手で目をこすろうとするステラを、スティングは何とか止めようとする。
しかも、片手には包丁を持ったままなので、非常に危ない。
「あぁ、もう!貸せ」
そう言って、今までステラが切っていた玉ねぎと包丁を取り上げると、アウルは危なっかしい手つきで、玉ねぎを切り始めた。

「おいおい、そんなんで、手を切るんじゃねぇぞ」
「わかってる!」

そうは言いつつも、ステラ同様にアウルも料理の経験などゼロだ。
その上、玉ねぎを切るにつれて、目に沁みて痛い。

「くっそう…」

今にも包丁を(文字通り)投げ出しそうなアウルに、スティングは大きくなため息をついた。

「貸せ」

そう一言言うと、スティングはアウルの手から玉ねぎと包丁を取り上げた。
そしてスティングは、玉ねぎを水をはったボールに入れ、包丁は、どこから持ち出したのか分からない砥石で、研ぎ始めた。
少しして、軽く水で流してからスティングは包丁をかざした。

「まぁ、こんなもんだろう」

満足そうに言うと、水から玉ねぎを取り出すと、手馴れた動作で玉ねぎを切り始めた。
包丁がまな板に当たる音が、規則正しく鳴り響いていたかと思うと、ステラとアウルが苦戦していた玉ねぎは、全て綺麗にスライスされていた。

「スティング…。お前って、器用だったんだな」

綺麗にスライスされた玉ねぎを見て、アウルが意外そうに呟く。
そしてなんとか涙が止まったステラが、スティングの名を呼ぶ。

「スティング…」
「あぁ?」

スティングが振り返ると、目の前にステラが立っており、スティングの手を握る。

「きっといいお母さんになれるよ」

それ以来、スティングはステラに尊敬の眼差しで見られたとか、見られなかったとか…。

モドル