嫉妬と恋心
キッカケは、本当に些細な事だった。
シャニが僕の事を無視して、あのうるさい音楽ばかり聴いていた。
なんかそれが、すごくムカついて。
気がついたら、シャニのプレーヤーをおもいっきし部屋の角に投げてた。
運悪い事に、プレーヤーは壁にもろに当たり、ガシャンって音がした。

それから3日間、シャニのうるさい音に悩まされる事はなくなった。
ただそれと同時に、シャニはあれ以来、僕と一言も言葉を交わそうとはしない。
まぁ、確かに悪い事をしちゃったとは思うけど、シャニにだって非はあるだろ?
可愛い恋人である、僕の事を無視するなんてさ。
まぁ、そんな訳で、僕はまだ謝ってない。
当のシャニは、かなり怒ってはいると思うんだ。
僕だって、このゲーム機を壊されたら、凄くキレるだろうし。
だからシャニは、僕の事を無視し続けてる。
それは仕方ないと思うんだけど、だからってあの態度も酷くない?
僕の事を無視してるくせに、妙にオルガには絡むんだよ。
と言うよりも、べったりって感じ?
今も、本を読んでいるオルガに寄りかかって、気持ちよさそうに眠っている。
本当なら、僕のポジションなのに…。
なんか、凄くムカムカする。

「はぁ~」

自然と大きなため息がもれる。

「さっきから、なんだよ」

本から少しだけ視線を上げ、オルガが聞いてきた。
どうやら、僕が何度もシャニとオルガの事を見ているから、それが気になるらしい。

「別に」

僕は視線を手元のゲームにへと移し、再びゲームを始めた。
シャニの…。あのうるさい音が無いから、僕のゲームの音が、やたら大きく聞こえる気がする。
なんか落ち着かない。
あんなにうるさいと思っていた音が、こんなにも耳に慣れていたなんて、僕も重症かな。
結局、つまらないミスの連発で、あっと言う間にゲームオーバー。
本当についてない。
ゲーム機をソファーの上に投げて、僕は軽く目を閉じた。
ゲームの音もしない部屋は、本当に静か過ぎて、誰もいないような錯覚を受ける。
ちらっと脇を見ると、シャニは、さっき見た時と同じ態勢で、オルガに寄りかかって寝てる。
僕の視線に気付いたのか、オルガと目が合った。
今まで読んでいた本をパタンと閉じ、オルガが立ち上がる。
オルガに寄りかかっていたシャニは、当然だけど、ソファーに背から倒れ込んだ。
その衝撃で目が覚めたのか、ちょっと面倒臭そうに、シャニはアイマスクを外して、オルガの事を見た。

「どこ行くの?」
「風に当たってくんだよ」

オルガも、面倒臭そうに答える。

「じゃあ、俺もついて行く」

オルガの言葉を聞いて、シャニがそう答えた。
つまり、シャニは僕と一緒に居たくないらしい。
その事が、凄く嫌だと思った。
そう思うと、オルガと共に出て行こうとする、シャニの制服を思わず掴んでいた。
怪訝そうに、シャニが掴まれた制服部分を見つめる。
そうしている間に、オルガとの距離はどんどん開いていく。
どうやら、オルガはシャニがついて来ようと、ついて来なかろうと関係無いらしい。

「何か用?」

気だるそうな、それでもまだ僕に対しての怒りを含んだ声で、シャニが口を開いた。
そう言えば、僕に対して言葉を発したのって、3日ぶりなんだっけ。
なんか、もっと長い時間、口をきいてなかった気がする。
でも、これって仲直りのチャンスじゃん。
そう思い、口を開いた。

「なんで…。なんでオルガと一緒に行こうとするんだよ」

あれ?これって、仲直りの言葉かな?
そんな事を思っていると、シャニが目を細めた。

「そんなの、クロトには関係ないじゃん」
「なっ」

関係ないって。
仮にも恋人の僕に言うセリフじゃないじゃんかよ。
シャニの一言に、胸がちくっと痛みを感じた。
なんて言うか、悔しいような、哀しいそうなそんな感じ。
この気持ちを伝えようと、僕は言葉を続けた。

「シャニは、僕の物なんだよ!」

そう言ってシャニの事を見つめると、シャニが鋭く僕の事を睨んだ。

「何それ。すっごくウザイ」

冷たい、猫のような瞳。
そう言えば、こいつはもともと猫みたいな奴なんだっけ。
でも今では、凄く近くに居て、それが当たり前だと思っていた。
シャニの視線に、一歩引きそうになっる。
だけどここで引いたら、一生シャニと仲直りが出来ないかもしれない。
たった、3日でも嫌なのに、一生なんてもっと嫌だ。
そう思うと、僕はシャニの事を強引に引き寄せた。
だらんと開かれた制服とシャツの間に垣間見える肌に唇をよせると、キュッっと吸って、赤い印を残した。

「離さないから。だから…、シャニも僕の事、離さないでよ」

制服を掴む手に、更に力を込める。
このまま離れたら、一生離れ離れになっちゃうんじゃないかと思えて、強く強く握り締めた。
シャニは何も言わず、何かを考えているようだった。

「じゃあ、クロトも俺の物だよね」

そう言って、シャニが僕の首筋に顔を埋めた。
次の瞬間、ちりっとした痛みが走った。
ゆっくりとした動作で、僕から離れるシャニ。
目と目が合うと、にやりと笑った。

「おそろい」

そう言って、僕がつけたキスマークと、僕の首筋にあるであろうキスマークを指差した。
僕がつけたキスマーク。
シャニがつけたキスマーク。
キスマークとは、他者に"これは自分の物なんだぞ"と、示す為の所有の印だ。
そして今、僕とシャニには、それが共に付けられている。
僕らは互いに相手の所有物だと言う事を示している。
つまり、シャニも僕の事を、所有していると言いたいのかな?
声には出せないけど、目で訴えると、シャニが優しく笑った。
その笑みには、さっきまでの刺々しい感情は含まれてなくて、いつものシャニの表情だった。
たぶん、僕の事を許してくれたんだと思う。
シャニの笑顔が凄く嬉しくて、僕はぎゅっとシャニに抱きついた。
そんな僕を、シャニはいつもの様に、優しく頭を撫でてくれた。
髪に振れる1本1本の指の動きがとても優しい。
凄く心地よくて、いつもの場所に帰って来たようで、凄く安心する。
でもそれと同時に、今まで自分がしてきた行為が凄く後ろめたくて、僕はシャニの胸に顔を埋めて、口を開いた。

「…ごめん。プレイヤー、壊しちゃって」
「あぁ…」

ゆっくりした動作で、シャニが頷く。

「じゃあ、クロトが歌を歌ってくれたら、許してあげる」
「歌?僕がっ!?」

驚いてシャニを見上げると、こくりと頷いた。
歌ねぇ…。
そんな上手い方じゃないけど、それでシャニが喜んでくれるなら、素直に歌ってあげるしかないよね。

「何を歌えばいいの?」
「う~ん。それは夜になれば分かるよ」
「えっ?」

シャニの言葉に、耳を疑った。
それって、もしかしなくても…って事?

「離さないから、覚悟してね」

子悪魔のような顔で、シャニがにやりと笑った。
夜が来るのはちょっと怖いけど、今はこうしてシャニの近くにいられる事が嬉しいから、それは忘れることにした。


時には喧嘩もするけど、誰よりも大好きだよ。シャニ。


この気持ちが伝わる様に、僕は再び、ぎゅっと抱きついた。



END





モドル