AM 1:00
ギィと嫌な音を立てるベッドのスプリング
ぶつかり合う身体。
女のような艶を含んだ僕の声。

それらは僕に関係ある事なのに、なぜか酷く他人事に感じてしまう。
きっとそれは、僕がそれにのめり込んでいない所為だ。



「そう言えば…今日は、僕が先だっけ?」

情事後の気だるさの残る体を少し起こし、脇にいるオルガに問いかけた。
オルガは乱れた前髪をくしゃっとかき上げて、僕の方を見た。

「あぁ、そうだな」
「そう。じゃあ、借りるね」

床に散らばっている制服を拾い、僕は奥にあるシャワーに向った。
シャワールームに入るとすぐさまコックをひねり、少し熱めのお湯を頭から浴びる。
もともと少し火照った身体の表面を、それらは猛スピードで滑り落ちていく。
髪の毛をぐしゃぐしゃと洗い、身体の中にある異物を流しだす。

あーぁ、気持ち悪い。

排水溝へと吸い込まれていく水を見て、僕は正直にそう思う。
まぁ、もともと好き好んでやっているわけじゃないから、そんなもんだろうけどさ。

キュッとシャワーを止め、脱衣所にあるバスタオルに手を伸ばそうとしたら、いつもならあるはずの位置にそれはなく、小さくため息をついた。

「オルガー、バスタオルが無いんだけど~」

少し大きな声で呼びかけた所為か、少し喉が痛い。
あとで水分補給しないとな。
そう思っていると、オルガが片手にバスタオルを持って現れた。

「サンキュー」

バスタオルを受け取り、身体の水気を拭き取っているのに、なぜかオルガはそこから立ち去ろうとしない。

「少し、付けすぎたな」

僕の身体を見て、オルガが呟く。

あぁ、この赤い痕?

オルガの言葉の意味を悟り、自分の身体を見下ろす。
これでもかってほど付けられたキスマーク。
別に恋人同士って訳でもないから、所有を示しているわけでもない。
ただ、行為に没頭している間に、無意識に付けてしまっただけにすぎない。
まぁ、どうせ服を着ちゃえばわからないし、それに…。

「別に、見られてもどうって事ないし」
「そうかよ」

愛想の無い声で言うと、オルガは奥の方へと行き、2つのボトルを手に戻って来た。

「ほら、水」

そう言って、水の入ったボトルを投げられた。
風呂上りで水分が欲しいと思っていたから丁度いい。
もちろん、水分が足りないのは、シャワーを浴びた事だけが原因ってわけでもないけど。
失った水分を補うように、ごくごくと水を飲んでいたら、口の脇から少しこぼれて、冷たい水のしずくが首元を伝った。
もともとタオルで身体の水気を拭き取っているときだったから、大して気にも留めないでいたら、それを舐め取るように、オルガが僕の首筋に吸い付いた。

「んっ…。水分摂取なら、水を飲んでよね」

そう言ってオルガの肩を押し返す。

「つれねぇな」
「もともと、そんなもんだろ」

いくら薬漬けになっているとは言え、僕たちはれっきとした思春期真っ只中の雄なわけで、性的衝動がある。
ただ薬による反動か、その時とそれ以外の時の差が激しい。
その所為で一人でヌクのはちょっと辛くて、僕はオルガと身体を交える事でそれを誤魔化している。
まぁ体格の差から、僕が女役を甘んじて受けて入れているわけだけど、決して男にヤられる事が好きなわけでもない。
出来る事なら、肌の柔らかい女の子とヤりたい。
勿論、生体CPUとなった僕らにそんな機会はそうそうないんだろうけどね。

「それとも何?オルガは僕に可愛い恋人でも演じてほしいわけ?」
「それもいいかもな」

そう言ってオルガは僕の腰に手を回すと、お子様なキスを浴びせてきた。
僕は腰に回っている手を外すと、オルガの事を押しのけた。

「冗談も大概にしてくんない?」

冷めた目見返せば、オルガは肩をすくめ"おー、怖っ"と言って降参のポーズをとった。

「それならあっちに行くか、シャワー浴びるかしたら?」
「あぁ、そうだな」

そう言ってオルガは殆ど着ていなかった衣服を脱ぐと、シャワールームに入って行った。
シャワーの水音を確認し、僕は小さくため息をついた。

これだからロマンチストは困る。

いつも無駄に本を読んでいるオルガは、どこか酔った演出をする時がある。
今のが、まさにそうだ。
それに付き合わされるこっちの身にもなれと思うが、どうせそんな事を言っても、オルガの事だから聞く耳を持つ事はないだろう。
よって、僕が半ば諦める形になってしまっている。

部屋に戻ると、さきほどまで波を立てていたシーツは剥ぎ取られており、代わりにパリッとのりの効いたシーツがベッドに敷かれていた。
相変わらず、手際のよいオルガに感心する。僕だったらあのまま放置しているところだ。

僕達の部屋は午前零時にドアのロックがかかり、そして午前6時に開錠されるようになっている。僕がこの部屋に来たのは今から2時間前で、自由に出入りが出来る時間だった。
そして今はロックがかかっており、朝までこの部屋を出る事は出来ない。
どうせこの部屋にも僕の部屋にも監視カメラがあるわけで、自分の部屋にいなくても居場所を確認出来るから、こうしてオルガの部屋にいても問題はないんだけど。

髪の毛を拭いていたタオルをテーブルの上に置くと、僕はしわ一つなかったベッドにダイブした。平均よりは軽い体重の僕だけど、ベッドに乗れば自然とシーツにはしわがより、先ほど行われた情事の最中と重なった。
傍から見たら、僕たちは異常なのだろうか?
男同士が抱き合い、慰めあっている姿は。
そうは思うものの、この場合は他に解決策がないのだから仕方が無い。

って、なんで僕はこんな事を考えてるんだろう。

考え出したらきりが無い事ぐらいわかっているのに、そんな事を考え始めた僕自身がバカらしくて、僕は不貞寝をするように目を閉じた。
寝ようと思ったのに、オルガの匂いが鼻についた。
変な話だけど、それが妙にほっとするような安心感があった。

えっ…、安心感?

恋する乙女じゃあるまいし、こんなので安心するなんてどうかしている。
自分の考えを振り切るように、僕はシーツに包まって体を丸めた。
この考えが僕の錯覚であるように、願いつつ眠りについた。



END





モドル