七夕
訓練を終え、部屋に帰ろうと歩いていた時、"パチパチ"と言う音が聞こえてきて、不思議に思った俺は、その音のする方へ行ってみることにした。




「あれって…ミゲル?」

もくもくと煙を上げて、何かが燃えている。その前で、ミゲルが一人、座り込んでいた。

「だめっしょ?こんな所で、油を売ってちゃさ」

"ねっ?"と言って笑うと、ミゲルは俺の顔を見ながら、大きくため息をついた。

「あのなぁ…。俺だって好きで、こんな事をしてるんじゃない…」
「じゃあ、何してんの?」
「任務なんだよ。これでも」

任務?何かを燃やすのが?っうか、これ何を燃やしてるわけ?

「ねぇ、あの燃えてんるって、もしかして竹?」
「あぁ。昨日、七夕で使ったやつ」


そう、昨日は7月7日。七夕だった。
訓練が終わった後、クルーゼ隊長はこの竹を、どこからともなく持ってきた。

「諸君、今晩は七夕である。よって今から、当クルーゼ隊は七夕飾りを作る事にする」

俺達は皆、心の中に一杯の不平不満を抱えていたが、あのクルーゼ隊長の事。それを言った日には、怖い目にあう事が分かっていたら、それは心の中にしまったまま、無視した。

「尚、各自ここにある物を使って、3つの飾りを作り、短冊一枚に願い事を書くように。終わったものから、あがって良い事とする。以上。では、作業開始」

原作から時間軸がかなりずれてる事や、そもそもプラントで七夕の風習が残っているのかとか、作者の勝手な話展開だとか、色々とツッコム所はあったけど、そう言う訳で、俺達は七夕飾りを作成したのだった。


「それで今朝、俺とオロールとマシューが、これを片付けるように言われたんだ。特別任務だと言われてな」

ミゲルはそこで言葉を切ると、また大きくため息をついた。

「けど、そんなのかったるいと言って、マシューの奴が提案したんだよ。じゃんけんで負けた奴が、一人で作業をするのはどうかって。まぁ、俺も同意したけどな…」
「ふ~ん。それで負けたんだ、ミゲル。格好悪~」

正直な感想を述べると、ミゲルが顔を上げて、俺の顔を見た。

「お前なぁ…。もっとこう、凹んでる俺を慰める言葉とか、優しい言葉をかける事は出来ないのか?」
「う~ん、無理」

そう言って、わざとにっこりと笑った。

「はいはい、お前はそう言う奴だったよな」

よくわかってるじゃん、ミゲル。

「で、どの位、片付いたの?」
「あぁ、3分の2って所だな。あと、ここにあるのを燃やせば、終了」

そう言って、脇に置かれているダンボールの箱を叩く。
中を覗くと、色とりどりの短冊が入っていた。

「っうか、なんでこれだけ外してあるわけ?」
「知らねぇ。隊長に渡された時から、そうだった」

突然、七夕飾りを作れとか、短冊に願い事を書けとか、その上、なぜか短冊だけはずしてあったりって、もしかして隊長はこれが目的だった?誰かの願い事を見るのが…。
いや、それは俺の考えすぎっしょ。うんうん。
思わず、自分の考えに首を横に振る。

そう言えば、他の皆は何て書いたんだろう。短冊の願い事…。
興味がわいて、どれか読もうを手を伸ばしたところで、ミゲルに阻止された。

「何すんだよ、ミゲル」
「それはこっちの台詞だ。俺の作業の邪魔をするな」

"ただでさえ、面倒なのに"とミゲルは、ぼやいた。

「してない」
「いや、してる。っうか、人の書いたものを読もうなんてするな」

うっ…。俺の行動が読まれてたらしい…。

「なんでだよ。いいじゃん」
「ダーメ」

そう言ってダンボールごと、取り上げられた。

「なんだよ、ミゲルのケチー」
「なんとでも言ってろ」

そう言って、ミゲルは火加減を調節している。先に燃やしてた竹をいじってるけど、確か竹って燃えにくいんじゃなかったっけ?どうでもいいけどさ。

「っうかさ、なんで燃やしてんの?」

大体、隊長はこれを片付けろって言ったんだろ?なら、燃やす必要ないじゃん。そのままゴミに出せば簡単だし、楽なのに…。まぁ、皆で頑張って作ったのもだから、ちょっと勿体無い気もするけどさ。でもだからって、自分の手で燃やすていうのもねぇ…。

「それじゃあ、届かないだろ?」

俺の思考を遮って、ミゲルが答えた。

「何が?」
「願い事が」
「誰に?」
「織姫と彦星に」

さも当然のように言うミゲル。もしかして、本気ですか?

「それさ、マジで言ってたりする?」
「あぁ。マジもマジ。俺は大真面目だ」

確かに、ミゲルの目は真剣そのもので、嘘ではないらしい。

「…。なんかミゲルって、結構ロマンチストなんだね」

そう言うと、ミゲルは一気に顔を真っ赤にした。

でも実際、そうだろ?
確かかぐや姫だっけ?月に帰ってしまったかぐや姫に、帝は歌を詠み、その歌を届ける為に、燃やして煙にして送ったと言う話に似てる気がする。
あれもちょっと切ない恋物語だよね。

「お前なぁ…。いきなり何を言い出すんだよ…」
「別に。ただ思った事を、そのまま口にしただけだけど?」

まぁ、まさかミゲルの口からそんな言葉が聞けるとは思ってなかったけどね。
ミゲルっていつも、俺の事を乙女だとか言うけど、自分だって似たようなものじゃん。まぁ、そんなところがまた好きなんだけどさ。

「それよりさ、早く短冊を燃やそう。じゃないと日が暮れるよ?」
「あぁ、そうだな」

ダンボールから、短冊をつかみ出し、ミゲルはそれをそろえて火の中に投げた。

「皆さ、どんな願い事を書いたんだろうね」
「なんだ、まだ気になってたのか?」
「まぁーね」
「そうだな…。たぶん大半は、早く戦争が終わるように。じゃないか?」
「そうだね」

皆、早くこの戦争が終戦する事を望んでいる。それはもちろん、俺やミゲルも同じ。
だけど、もしこの戦争が起こらなかったら、俺はミゲルとは一生出会わなかったかもしれない。
ミゲルは、この戦争が始まる前から軍に志願していた。つまり、この戦争とは関係無しに、ここに来たのだ。
でも俺は違う。あの血のバレンタインがあったから、ここにいる。プラントを守るために、軍に志願したんだ。それはアスランやニコル、イザークやディアッカも一緒だと思う。

「なぁ、ミゲル」

ミゲルに、声を掛ける。

「なんだ?」
「ミゲルはさ、短冊になんて書いた?願い事…」
「お前もしつこいな…」

ちょっと呆れた感じで、ミゲルが俺の事をみる。

「さっきみたいな、興味本位じゃないからね」

多分、信じてはくれないだろうけど、一様言ってみる。

確かに、さっきのは興味本位だった。
でもミゲルに対していった事は、決して興味本位ではない。
凄く気になったって言うのかな?なんか、胸の辺りが落ち着かなくて、そわそわした感じ。
皆のを見てみたいって言った時は、わくわくって感じで、好奇心からだったと思う。
でも、今は違うんだ。

「どうかしたのか?ラスティ」
「いや、別に。言いたくないなら、無理に言わなくていいから」

自分でも、言ってる事が矛盾してると思った。
ミゲルから離れようと立ち上がったが、急にミゲルにぐいっと引っ張られた。
しかもバランスを崩して倒れそうになったけど、そこをうまくミゲルが受け止めてくれた。

「何?」

ちょっと見上げるような形で、ミゲルの顔を見る。

「お前さ、言いたい事があるなら、正直に言えよ」
「どうせ俺は素直じゃないよ。だけど、それはミゲルだってお互い様だろ?」

ミゲルだって、肝心な時にいつも、大切な事を言わないじゃないか。俺が気付かないと思ったわけ?

「それは分かってる。だから、今回は素直に言ってやるって言ってんだ」
「えっ?」
「一度しか言わないから、よく聞けよ?」

そう言って、ミゲルが俺の耳元に顔を寄せる。
そして俺は、思いもしなかった言葉を聞いた。

「それ、本当?」
「俺の事をなんだと思ってんだよ。わざわざ、嘘を教えるような嫌な奴だと思ってたのか?お前は」
「いや、そうじゃないけど…」

だけど、突然あんな事を言われて、驚かない方がどうかしてるよ。

「で、満足したか?」

笑いながら、ミゲルが聞いてきた。
言葉に出すのが恥ずかしくて、俺は"もちろん"の意味を込めて、ミゲルの首に腕を回した。
ミゲルが、ふっと嬉しそうに笑ったのが分かった。




ねぇ、その宇宙のどこかにいる織姫と彦星。
この願い事って、本当に二人のもとに届いているの?
そう聞いたところで、答えは返ってくるはずがない。
でも、例えこの願いが届かなくても、俺は凄く幸せかもしれない。
だって、愛する人がこうして傍にいてくれる事が、何よりもの幸せだろ?



END





モドル