一つ 私を生んでくれた両親に。
二つ 私を愛してくれたあの人に。
三つ 私を取り巻く全ての人に。
平和の歌を捧げましょう。
それが私に出来る恩返しですから…。
花散りし時
青い空。白い雲。黄色い太陽。
それは人の手では、決して作ることの出来ない自然の産物。
頬を掠める風すら新鮮で、ラクスは自然と笑みがこぼれた。

「嬉しそうですね」

声の主-アスラン-へと視線を移すと、にっこりと笑う。

「えぇ、とても嬉しいですわ。アスランが側に居てくれて…」
「えっ?あっ、ありがとう御座います」

照れるアスランに、ラクスは再び微笑んだ。

ナチュラルとコーディネーターの戦いは、キラやアスランが率いるオーブを主体とした第3勢力の介入により、一時停戦へと結びついた。今だナチュラルとコーディネーターとの壁が取り除かれた訳ではないが、この事がきっかけとなり、今後ナチュラルとコーディネーターの仲がよくなる事を多くの者が望んでいる。

「そう言えば、アスランとこうしてゆっくりとお茶をするのも久しぶりですわね」

ラクスの言葉に、アスランは少し苦い顔をする。

「お互い、忙しいですからね」

今二人はお互いに平和の為に働いている。
停戦とは言え、ナチュラルとコーディネーターの間で平和条約は結ばれていない。その為、アスラン達第3勢力は今、お互いの意見を交換したりしつつ、ナチュラルとコーディネーターの壁を少しでも取り除くべく懸命に働いている。
そしてラクスは、キラにフリーダムを託した時『私も平和の歌を歌う』と言っていた通り、プラントのコーディネーター達に命の尊さについて演説するその一方で、歌姫としても活動している。先月に出した『サクラソウ』はチャリティーも兼ねており、コーディネーターはもちろんの事、ナチュラルの間でも密かに人気が出ている。
そんな中やっと二人の空いた時間が重なり、桜の木の下でお茶をしているのだ。

「それにしても綺麗な桜ですわね」

上を見上げれば、青い空によく合う桜の花が満開となっている。
その色はラクスの髪の色にも似ていて、可愛らしくも美しい。

「あっ、ラクス。少し動かないで」

ラクスの頭の上に落ちてきた花びらを、アスランがはらうと、桜の花びらはゆらゆらと舞い、ラクスの手の持っていたティーカップに着水した。

「バラのジャムを落としたみたいですわね」

花びらを取るわけでもなく、ラクスはティーカップに浮かぶ、それを見つめた。
しかし次第にその瞳は悲しみに染まっていく。

「どうしたんです?ラクス」
「いえ…。美しい桜の木の下には、多くの方が眠っていると言う話しを聞いた事がありましたから…」
「そうですか…」

ラクス同様に、アスランは悲しい瞳で桜の木を見つめた。

自分のこの手で奪った多くの命。
その他にも多くの者が死んだ。
その者達の魂は、今もさ迷い続けているのかもしれにない。
そう思うと、アスランの胸は締め付けられたように苦しくなる。
それは一生消える事の無い十字架…。

「でも…」

穏やかな声でラクスは言葉を続ける。

「ここでしたら、寂しくはありませんね。多くの方に見て頂けますもの…」

そう…。
失われた魂が戻ってくる事はない。
しかし桜の花として、この大地として、全てのモノは生きる。
そしてソラへと帰って行くのだ。

「アスラン、大丈夫ですわ」
「えっ?」

ラクスに視線を移すと、ラクスは優しく微笑んだ。

「私が平和の歌を歌いますから。貴方の為に…」



一つ 私の最愛の両親に。
二つ 私の愛しているこの人に。
三つ 私の周りにいる全ての人に。
平和の歌を贈りましょう。
それが私に出来る感謝の気持ちですから。



END





モドル