薬中+盟主のお題

1.お仕事【アズラエル視点/アズラエル・オルガ・クロト・シャニ】
今、僕達は戦争をしています。
人類の生存を掛けたナチュラルとコーディネーターとの戦いです。
僕はその戦いに貢献している善人です。
そして目の前にいる少年達は、その大切な戦力のはずなんですけどね。
「あー、君達。一体何を騒いでいるんですか?」
僕のその声に、3人の動きがぴたっと止まった。
オルガはクロトの頬をひっぱり、クロトはオルガのわき腹に蹴りを入れ、シャニは遠方からオルガの本を投げていたらしく、本を手にしたままの格好。
それは子供のケンカそのものです。
「君達、今何をしているのかわかっているんですか?」
少し呆れた風に言うと、3人はてんでバラバラに口を開くんです。
「あぁ?戦争だろ」
「それ位、何度も言わなくても分かってますよ」
「ウザ~イ」
一通り主張が済んだところで、僕は言葉を続けた。
「そうですか。それは失礼しましたね。じゃあ、君達もお仕事をしてもらいましょうか」
その一言で、彼らの瞳が輝いたのがわかった。
「あの赤いのと白いのやれるのか?」
「やったね」
「ふふっ」
先ほどのケンカが嘘のように、彼らは嬉々とした表情を見せた。
さぁ、君達も自分の仕事をこなしなさい。
僕も僕の仕事をこなしますから。
それぞれの瞳に狂気を忍ばせ、彼らは部屋を出て行った。
2.記憶【オルガ視点/オルガ】
インプラント手術とγグリフェプタンの副作用で、俺は過去の記憶を失った。
それは俺だけじゃなくて、俺と同じ生体CPUの"お仲間"であるクロトやシャニも同じだ。
消えてしまった記憶。
それは二度と戻ってこないもの。
それは俺が奪ってきた他人の命と同じようなもの。
俺があいつらの命を奪ったように、俺の記憶を研究員が奪った、ただそれだけの事。
そんな事を考え出したらキリがない。
だけど俺はそんな事を考えてしまう。
自分の矛盾に気付きつつも、尚も繰り返す日々。
この記憶も、いつか全て消えてしまうのだろうか。
そうしたらまた同じ事を、俺は思うのだろうか。
3.名前【シャニ視点/アズシャニ】
あいつと契約を交わした時、一枚の紙に自分の名前を記入した。
それは"昔"の名前であり、"今"の名前とは違う。
シャニ・アンドラス-それが"今"の俺の名前。
昔、自分がどう人に呼ばれていたかなんて覚えてないし、知る必要もない。
俺はただ、ここで自分のしたい事をしているだけなのだから。
だから一層の事、この面倒な名前なんか消えてしまえばいいと思う。
だけどそう言うと、あいつは決まってこう言うのだ。
「僕が決めた名前がそんなに嫌いなのですか?」
そう言われ、別に自分が"今"の名前が嫌いじゃない事に気付かされる。
「別に…」
面倒だからそれだけ答えると、アズラエルは少し嬉しそうに微笑むのだ。
「そうですか。それはよかった」
そう言って微笑むあいつの顔を見るのが、嫌いじゃないと思う自分がいるのも事実だった。
4.所有物【クロト視点/アズクロ】
薬という檻に閉じ込められた僕は、あの人の道具であり、忠実な狗だ。
既に僕達(この場合は、同じ生体CPUのオルガとシャニを指す)は人ではない。
ソキウスが攻撃を仕掛けてこない事から、ナチュラルである事は証明できるけど、ナチュラル=人と言う方程式は僕達には通用しない。
一見矛盾していると思うけど、あの人と契約をした時点で僕は人である事を止めてしまったのだから当然と言えば、当然だ。
「どうかしましたか?クロト」
そんな事を考えてぼーっとしていたらしく、アズラエルが僕の顔を不安そうに覗き込んできた。
「なんでもないですよ」
アズラエルの目を見て、僕は笑い返した。

持ち主であるこの人が、僕を捨てるその日まで、僕はあなたの所有物。
だから僕の事を捨てて、不用品にしないで。
5.ナチュラル【アズラエル視点/アズラエル・オルガ・クロト・シャニ】
研究員らから薬のアンプルを貰い、各々のパイロットスーツに身を包んだ3人。
そんな彼らを僕は静かに見送った。
僕も彼らも、所詮はナチュラルだ。それはかえようの無い事実です。
でもだからと言って、自分らの手で生み出した怪物に勝てないなど誰が決めたのでしょうか?
現にオルガ・クロト・シャニの三人は他のどんなナチュラル達よりも、あのMSを乗りこなしています。それはコーディネーターに匹敵するほどです。
まぁその為に僕が多額な研究費を出したのですから、当然の結果ですネ。
だから早く目の前の敵を倒しちゃって下さい。
そうすれば、あなた達の価値も証明できるのですよ。
MSの部品でも、こんなに役に立つのだとね。
さぁ、憎きコーディネーター達を全て片付けてしまいなさい。
そしてこの世は、ナチュラルだけのモノにするんです。
蒼き清浄なる世界の為にネ。
モドル