薬中同士のお題

1.お仲間【クロシャニ】
「僕はお前の事を仲間だなんて思ってないからな」
人が気持ちよく音楽を聴いている時に、クロトが俺に言った言葉だった。
仲間か…。
俺達に一番不似合いな言葉だと思った。
仲間という言葉は、互いの信頼関係の上に築くものだろう。
だとしたら俺達の場合、これほど不似合いな言葉はない。
そもそも、信頼関係を築く必要はないからだ。
だって、俺達はMSの部品だから。
「で、クロトは何が言いたいの?」
クロトの言葉の真意を探ろうと思ったけど、それは面倒だから止めた。
その代わり、素直にクロトに聞く事にした。
「僕は同情とかでお前の事を好きになったんじゃないんだからな。だから、僕はお前の事を仲間だとは思わない」
その発言はいかにもクロトらしくて、俺はこくりと頷いて見せた。
「いいよ。俺も、クロトの事を仲間とは思わないから」
だから俺の事を裏切らないで。離れていかないで。
言葉に出来ない願いを込めて、俺はクロトに可愛いキスを贈った。
2.時間切れ【シャニオル】
シャニはいつもソファーを占領して寝ている。愛用のアイマスクをし、装着しているイヤホンからはいつもなんだか分からない音楽が流れている。
俺は大抵本を読み、クロトはゲームに集中している。
互いに互いを干渉しない生活。それが俺達の暗黙のルールのはずだった。
だがいつからか俺はシャニに惹かれるようになり、いつの間にかやつに組み敷かれる関係になっていた。勿論ポジション的に、不満が無いわけではない。
かと言って、この関係を断ち切れるわけでもない。
そんな普段からあいつに振り回されっぱなしの俺が、唯一自由に出来る事。
それは眠りについているシャニの髪をもてあそぶ事。
見かけからして柔らかそうだとは思っていたが、触れるとそれが一段とわかる。
何度も梳くように髪に触れ、もてあそぶ。
しかし突如、そんな小さな幸せの終わりを告げるアラームが鳴った。
出撃の合図だ。
「ちっ」
俺は小さく舌打ちをし、先ほどまで触れていた髪を軽く引っ張った。
「起きろ、シャニ。時間だ」
そう言ってやると、シャニはのろのろと起き上がりアイマスクをずらした。
「折角、良い気持ちだったのに」
名残惜しそうに言うシャニに、俺だってそうだと心の中で呟き返した。
3.依存【オルシャニ】
ごろんとソファーに転がっていて音楽を聴いていた時だった。
ふと、別のディスクが聴きたくてテーブルの近くにいるオルガに声を掛けた。
「オルガ、それ取って」
「おらよ」
"どれ"と指示したわけでもないのに、オルガは俺が聴きたいと思っていたディスクを俺に差し出してきた。
「さんきゅう」
俺はそれを受け取って、機嫌よくそう言うと、ディスクをセットしてスタートボタンを押した。
「お前ってさ…」
俺に話しかけると言うよりも独り言に近い声に、俺は一時停止のボタンを押して、オルガの言葉に耳を傾けた。
「俺がいないと何も出来ないんじゃないのか?」
「そう?」
そんな事ないと思うけど。
その言葉は面倒だから口にしないでいると、再びオルガが口を開いた。
「お前、俺が死んだら生きていけないんじゃないのか?」
冗談なのか、本気なのかわからない言葉に、俺は本気で答えた。
「大丈夫だよ。俺はあんたより先に死ぬから。それなら問題ないだろ?」
そう言ってやると、オルガは呆れたようにため息をついて手にしていた本に、再び目線を落としたのだった。
4.瞳の色【ver.シャニクロ】
「シャニの瞳の色って、左右別なんだ」
僕がなんとなく呟いた言葉で、シャニの機嫌が悪くなったのはすぐにわかった。
なぜなら、シャニは瞳の色にコンプレックスを抱いているからだ。
左目は金で、右目は紫のオッドアイ。それはかなり特殊といえるだろう。
「綺麗なのに勿体無くないの?」
「全員が全員、そう思うわけじゃないだろ」
気だるそうにしつつシャニが言った言葉は、正論だと思う。
一つの物を見て、それを見た者が全員同じ感想を持つとは限らない。
人間なのだから当然だ。
「それに色々言われるの嫌い」
なんともシャニらしい発言だと思う。
シャニは自分以外の人間が、自分のテリトリーに入ってくるのを特に嫌う。
特にシャニの瞳の色は、シャニが最も嫌う事だ。
だから前髪で瞳を隠すのも自然な事だろう。
「じゃあ、僕の事も嫌いになった?」
ちょっと嫌味っぽく言うと、シャニはにやりと笑った。
「んな訳ないだろ」
そう言った時のシャニの瞳がきらりと光り、それが綺麗だと思った事は内緒にしておこうと思う。
4.瞳の色【ver.オルクロ】
もともと整った顔立ちをしていると思う。ナチュラルのくせに顔だけはいい。
ライムグリーンの瞳は、少し緑を含んだ金髪の髪と良く合っていた。
その所為だろうか、その瞳を見つめたいたら目が離せなくなっていた。
オルガは相変わらず本を読み続けている。
一体、そんな本のどこが面白いと言うのだろうか?僕には全く理解できないね。
そう思っていると、オルガの目線が本から外れた。
次の瞬間、バチンッと僕の目とオルガの目がかち合った。
僕達の間に微妙な空気が流れた。
オルガは僕から目線をそらさず、僕もそんなオルガに負けるのが嫌で、じっと見つめ返した。
だけどそれもどれだけ持つか、微妙なところだった。
だって何も言わずに見詰め合うなんて、今までした事なくて恥ずかしかったからだ。
コチコチと鳴る時計の音が物凄く耳障りだ。
早くオルガも目をそらせばいいのに、なんでそらさないんだよ!!
そう心の中で言うが、オルガは一向に目をそらさない。
そしてとうとう、僕が先に目をそらしてしまったのだ。
「あっ…」
気付いた時には、僕は床に視線を落としていた。
それでも何も言わないオルガに居心地の悪さを感じて、僕は口を開いた。
「なんでずっと僕の顔を見てんだよ!」
恥ずかしさを誤魔化す為に悪態をついて発した言葉を大して気にするでもなく、オルガは普通に言葉を返してきた。
「いや、お前の瞳の色って空に似ているなって。そう思ったら、目をそらせなくなってた」
冗談ぽく言うのでなく、真面目な顔で言われ、僕は顔が熱くなるのを感じた。
「バッ、バッカじゃないの!!」
近くにあったクッションをオルガめがけて投げつけると、僕は足早に部屋から退散した。
別に今まで嫌いだったわけじゃないけど、自分の瞳の色が今まで以上に少し好きになった瞬間だった。
5.終わり【クロオル】
「ねぇ、オルガ。僕達もうそろそろ終わりにしない?」
静かな口調でクロトがそんな事を言った。
クロトの意外な言葉に、俺は間抜けながら手にしていた本を落としていた。
「マジで…言ってんのか?」
「マジって言ったらどうする?」
人を試しているようなクロトの視線に耐えられず、俺はクロトから視線をずらした。
「俺は…」
手のひらに爪が食い込みそうなほど手を握り締めた。
俺はどうしたい?
そう心に問いかけるが、そんなのはクロトと付き合いだした頃から決まっている。
意を決して自分の気持ちを言葉にしようと思った時、クロトの高らかな笑い声が部屋に響いた。
「あぁ?」
唖然としている俺を横目に、クロトは何がおかしいのか腹を抱え笑い続けている。
そして散々笑った後、先ほどの静かな口調はどこへ行ったのやら、いつもの人を小ばかにした声で言葉を発した。
「バッカじゃないの。僕がオルガの事、手放すはずないじゃん」
そう言った次の瞬間、ぐっと襟元を掴まれて引っ張られた。
「どう?焦った?」
その口調に、自分がからかわれていた事に気付いた。
クロトは俺の反応に満足したように、にんまりと笑っている。
「まぁ、安心していいよ。僕は絶対にオルガを離さないんだから。むしろ覚悟しておいてね」
「はっ、生意気」
先ほどまで焦っていた自分が恥ずかしいようなバカらしいような気持ちになり、クロロトの背中に手を回した。
「てめぇなんかに、捨てられてたまるかよ」
そう言うとクロトは満足げに笑ったのだった。
モドル