ヘタレ
好きな音楽を聞きつつ、昼寝をしている時だった。
ウザイおっさんが、邪魔しに来たのは。

「シャニはいますか?」
「へぇ?」

アイマスクをずらしてみたら、なぜか奴にしては珍しく、クロトを無視して、おっさんは真っ直ぐ俺のところに来た。
そして強引に俺の腕を引っ張った。

「君に話があるんです。一緒に来てください」
「ヤダッ。俺はおっさんに話なんて無いし」
「君に拒否権なんてありません!」

俺の意見などあっさりと無視し、俺は普段は入らないおっさんの部屋まで連れて来られた。
とりあえず進められた椅子に座ると、菓子と茶が目の前に並べられる。

「実はクロトの事で相談なんですが…」

と言って、真面目な面をするアズラエル。
まぁ、このおっさんが切羽詰ってるときは、99%クロトだから、なんとなく予想はついていたが、正直ウザイ。

「僕の愛してやまないクロトなんですが、それが酷いんですよ。何も僕に聞かなくても、いいと思うんです。だって、僕たちは恋人同士なんですよ?僕だったら、星の数ほど上げられるというのに、いくらなんでもあれは酷いんですよ」

ただでさえ、俺の大切な睡眠が削られてイライラしているというのに、おっさんの要領を得ない発言に、俺はキレた。

「はぁ?人の言葉を話せ」

そう言って、ドスッとみぞおちに一発拳を入れると、おっさんは静かになった。

「いい…パンチでしたよ、シャニ…。一瞬、お花畑が見えましたよ」

チッ。そのまま、そっちに行っちゃえば良かったのに…。

「何か言いましたか?シャニ」

ぼそっと言ったはずの言葉が聞こえていたらしく、おっさんが聞いていた。

「別に」
「そうですか。じゃあ、ちょっと僕の話を聞いて下さい」
「勝手にすればー」

そう言うと、アズラエルは本当に勝手にしゃべり始めた。

「えぇ、そうさせてもらいます。実は昨日、クロトとお茶をしていた時の事なのですが…」

おっさんの回想(一部妄想を含むと思う)

「クロトー、お茶が入りましたよ」

そうやって呼ぶと、クロトが可愛らしい笑顔で近づいてきたんです。

「今日はクロトの好きな、紅茶のクッキーを取り寄せてみました。どうぞ、召し上がれ」
「いただきます」

そういって、クロトは嬉しそうに紅茶のクッキーをを頬張ったんです。
その姿は、小動物が餌を一生懸命食べている姿に似ていて、物凄く可愛いんですよ!!

「本当にクロトは、美味しそうにクッキーを食べますね」
「まぁーね。ここのクッキー好きだし」

そりゃ、材料にも凝っていますし、一流のお菓子職人が作っているものなんですから、美味しいのは当たり前なんですけどね。
それでも、それを食べるクロトの姿は、見ていて可愛いんですよ。
ですが、そんなクロトの手がぴたっと止まったんです。
どうしたのだろうとクロトの顔を見ると、クロトが真剣な顔でこう言ったんです。

「そう言えば、僕ってアズラエルさんのどこが好きなのかな?」
「え?クロト?」
「ねぇ、どこが好きなのかな?」

その時の衝撃と言ったら、言葉では表せないほど凄まじいものでした。

おっさんの回想終了(たぶん)

「その場は、お菓子でクロトの気をそらしたので、深くは聞かれませんでしたが、この時の僕の気持ちがわかりますか!?これって、僕に魅力が無いって事ですか!?」
「そうじゃん」

まぁ、おっさんの気持ちなんて知ったこっちゃないけど。
俺には関係ないし。いや、こうやって関わってるから迷惑はしてるけど。
そう思いつつ、目の前に並べられたお菓子に手を伸ばす。
さすが我侭お坊ちゃん。
俺らが普段食べてるものより、数段うまいじゃん。

「ちょっと、僕の話を真剣に聞いているんですか!?事の重大さが分かってますか?『僕って、アズラエルさんのどこが好きなのかな?』って可愛い顔で言われたんですよ。これがショックを受けずにいられますか!?」
「ウザイッ」

俺の一言に、おっさんが凹んだのが分かった。
まぁ、おっさんが凹もうが、クロトに嫌われようが俺の知ったことじゃない。
だけど、巻き込まれるこっちの身にもなれと思う。
ったく、本当にウザイんだけど、このおっさん。
いい年こいたおっさんが、たかが恋人に自分のどこが好きかわからないって言われた位で、うるさいし…。
だいたいそれって、どこが好きかあげられないほど、好きだって事だろ?
俺らの倍位(たぶん)生きてんのに、そんなのもわかんないのかよ。
このおっさんは…。

「おっさんさ、恋は網膜剥離って言葉知ってる?」
「シャニ、網膜剥離は目の病気ですよ。どうして、そんな難しい言葉と間違うんです?君が言いたいのは、恋は盲目じゃないですか?」
「あぁ…。それ」
「"あぁ、それ"じゃないですよ。それに、恋は盲目とは恋は人を夢中にさせ、理性や常識を失わせるものだと言う例えなんですよ。それをわかっていて使っているんですか?」
「わかってるに決まってるだろ」
「ならいいですけど、クロトが恋に盲目だといいたいのですか?」
「それはおっさんの方だろ?」
「えっ?」
「あんたさ、クロトと何年一緒にいるの?一応、俺らより先に知り合ってんだろ?なら、クロトの事もう少し理解したら」
「と、言いますと?」

はぁ…。まだわかんないのかよ、このおっさん。

「あいつはお子様だから、"どうして"が言えないだろ。だから、おっさんが好きだって事も直感なわけ。だから、おっさんに聞いてきたんだろ」
「まぁ、そうかもしれませんけど…」

"だからと言って、あれは無いじゃないですか…"と女々しいおっさんに、俺は盛大にため息をついた。

「一応、おっさんの方が年食ってんだし、そういう所はおっさんがカバーしてやれよ」
「年を食っていると言うのは、余計です」

いや、どうせ事実だし。

「そうですね。確かにクロトはまだ、子供なんですよね。僕が少し焦っていたのかもしれません」

やっとわかったのかよ。
本当に手のかかるやつだよな、おっさんは。

「じゃあ、俺はもう戻るから」

そう言って立ち上がると、おっさんも立ち上がった。

「色々とありがとうございました。君でも、たまには役に立つ事があるんですね」
「"たまには"は余計だよ」

謝礼代わりに、テーブルにあったお菓子の缶を手にし、俺はおっさんの部屋をあとにした。

はぁ~あ、本当にウザイ。
どうして、この俺がお子様とヘタレの恋の相談を受けないといけなんだろ。
お陰で、睡眠時間が30分は減った。
これだから、嫌なんだ。
おっさんに関わるのは。



END





モドル