依存症 |
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昼間の訓練で、くたくたな体。 夜の闇が包み込む部屋。 疲労感はあるのに、一向として襲ってこない眠気。 こうなってから、5日になる。 そう。たった5日間、貴方に会わなかっただけなのに…。 ベッドの上で、何度も寝返りを打つけど、今日もまた眠れそうにない。 それでも、僕の事情などお構い無しに、明日も仕事があるわけで、僕としてはどうにかして少しでも寝たい訳だ。 1日3時間。それだけ睡眠が取れればいい方で、それでさえも累計にすぎない。 なぜなら、寝ても直ぐに目が覚めてしまうからだ。 今日は、帰ってきてるかな? ふと、こうなった原因の人物を思い出す。 一旦気になり始めたら、居てもたってもいられなくなって、僕は静かに部屋を出た。 ここでの生活も1年が経とうとしている。 あの日、アズラエルさんが僕に差し出した1枚の書類。 僕はそれにサインをし、ここで色々な検査を受けた。 なんでも、アズラエルさんが考えている"実験"には、それなりの体力と精神力が必要で、それに見合うまで"実験"には参加出来ないらしい。 そういうわけで、僕はアズラエルさんの役に立つ為、毎日頑張っているってわけ。 それなのに僕は、今だあの人から離れると落ち着かないんだ。 僕とあの人は、そう易々と会話をしていい関係ではない。 それでもアズラエルさんは、何かと僕に声を掛けてくれる。 もちろん、それはオルガやシャニに対しても同じだけど、あの人の顔が見れるだけで、僕は嬉しくて、どんな訓練にも耐えられるんだ。 だけど、そのアズラエルさんは5日前から他国に出掛けている。 仕事の内容は聞かなかったし、いつ帰ってこれるかも聞いていない。 だから、このままアズラエルさんの部屋まで行ったとしても、彼がいる可能性はとてつもなく低い。そんな事は分かっているはずなのに、僕は歩く事を止めずに、とぼとぼと、アズラエルさんの自室の前まで来てしまった。 もしかしたら、今日も帰ってこないのかもしれない。 ふと、そんな考えが頭をよぎった。 目の前の扉をノックすればわかるけど、もしそれで反応が無かったら、僕はどうすればいいんだろう。またあの部屋に戻って、眠れないまま朝まで過ごすのかな。 そう思うと、体が震えそうになった。 あの人の事を思いつつ、この体を抱きしめて眠った夜は数知れない。 もしかしたら、次に会った時、彼に拒絶されるかもしれないと言う、不安があるから。 実際、今までそんな事は無かったけど、その不安を拭い去る事は出来なかった。 なぜなら、僕の未来は約束された物じゃないから。 あの人を手に入れることなんて、今の僕には出来ない事なんだ。 そう思うと、急に目頭が熱くなった。 「あぁ、もう止めた!止めた!」 自分が凄く女々しい生き物みたいで、僕は首を振って、この嫌な考えを消そうとした。 多分、アズラエルさんは今日も帰って来てないだろうし、もう自分の部屋に戻ろう。 そう思った時だった。 「こんばんは、クロト」 凄く懐かしい声がした。 しかもその声は、僕の真後ろから聞こえた。 僕がゆっくりと振り返ると、いつものスーツに身を包んだ、アズラエルさんが立っていた。 「あっ、こんばんは」 それだけを言うのが、やっとだった。 久しぶりに会えたのに、ずっとずっと会いたいと思っていたのに、僕はアズラエルさん本人を目の前にして、上手く言葉を発せられない。 アズラエルさんはゆっくりとした動作で、僕に近づいてきた。 「どうしたんです?こんな時間に」 「えっ?いえ、その…」 一人あたふたする僕を見て、アズラエルさんが笑った気がした。 「よろしかったら中へどうぞ。立ち話もなんですから」 アズラエルさんに促されて、僕はアズラエルさんの部屋に入った。 大きめの、座り心地の良いソファに腰を下ろすと、アズラエルさんは"ちょっと待っててくださいね"と言って、隣の部屋に消えていった。 戻ってきたアズラエルさんは、2つのマグカップを持っていて、その1つを僕に差し出した。 「ちょっと熱いので、気をつけて飲んでくださいね」 そう言われ受け取ったのは、ちょっと甘い香りが漂うホットミルクだった。 「いただきます」 そう言って、一口だけ口に含む。 程よい温かさと甘さで、すぅーと体にしみこんでいく気がする。 凄くほっとする。 「5日、ぶりですね。君と会うのも」 「えぇ」 「何か変わったことでもありましたか?」 「いえ、特には…」 ずっと会いたかったはずなのに、アズラエルさんと目を合わすのが恥ずかしくて、僕はずっとミルクの入ったカップを眺めていた。 ちらっと、アズラエルさんの顔を見ようと視線を上げると、見事にアズラエルさんと目が合った。アズラエルさんも、僕と視線が合った事に気付いたらしく、にこっと優しく笑い返された。 「どうして、僕の部屋の前にいたんです?」 「えっ、それは…あなたに会いたかったから」 思わず本音を言ってしまい、僕は顔色を伺うように、アズラエルさんの顔を見た。 「迷惑でしたか?」 「そんな事はありませんよ。僕も会いたかったですしね、クロト」 そう言って、アズラエルさんは僕の髪を何度も梳いてくれた。 「よかった…ふわぁ~」 あれ?さっきから、生あくびが絶えない。なんか、凄く瞼も重い感じがする。 僕の異変に気付いたのか、アズラエルさんが近づいてきた。 「あぁ、もうこんな時間ですね。よかったら、そのままここで眠るといい」 アズラエルさんの言葉が切れるか切れないかの時点で、僕はそっとベッドに運ばれ、横にさせられた。 「でも…」 「気にしなくて、いいんですよ」 そう言って、きちんと上掛けをかけられた。 眠りにつく間際、アズラエルさんの声が聞こえた。 「おやすみ、クロト。よい夢を」 僕はそのまま、深い眠りにへと落ちていった。 |
END |