伝えたい思い |
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別に俺だけを見て欲しいだなんて、自己中心的な事を言うつもりはない。 いくら俺でも、そこまで独占欲の塊じゃないからね。 それでも一応"コイビトドウシ"なんだから、少しぐらい俺の事を特別に見て欲しいという気持ちがあるのは、不思議な事じゃないっしょ? ただ相手が"あの"ミゲルだからね。 素直に言えっこないんだ。 「何してんだ?お前」 自室に戻ってきたミゲルが、俺を見て一番初めに言った言葉がこれだった。 他にもっと、別の言い方があるだろうに、やや呆れたふうに言うミゲルに少しだけ視線を移し、俺は再び目の前の本に視線を戻した。 「お帰り」 それでも一応、挨拶だけしておく。 黙ったままだと、頬とか引っ張られそうだからね。 ミゲルはきちんと着ていた制服のボタンを外し、部屋で寛ぐスタイルになっていた。 そんな中、俺がミゲルのベッドを占領していたから、少なからず不満があるだろうと俺は頭の片隅で思った。 「おい、ラスティ。聞いてるのか?」 「うーん。ちょっとこの本が読みたかったから、お邪魔してた」 完結にそれだけ言うとミゲルは諦めたのか、自分はオロールが使っている方のベッドに腰を下ろした。 「そこ、俺のベッドなんだぞ」 「うん、知ってる」 「なら、どけ」 やや乱暴な言葉だけど、まだ怒ってはいない。 そう確信すると、俺はミゲルの言葉を無視して本に没頭した。 ミゲルも近くにあった雑誌に手を伸ばしたらしく、ときどきページをめくる音が部屋に響いた。 それからどれくらいが経っただろうか。 ふいに、自分の名を呼ばれた。 「おいラスティ」 「何?」 「お前さ、何か言いたい事があるなら、素直に言ったらどうだ?」 どこか飽きれた風に言うミゲルに、今まであまりよくなかった機嫌が、一気に急降下したのが分かった。 勿論、ミゲルのじゃなくて、俺の機嫌がだ。 「別に俺は言いたい事なんてないけど。そんな事を言う、ミゲルの方が何か言いたい事でもあるんじゃん」 ややつっけんどんな言い方をすると、視線をそらしたミゲルの機嫌が悪くなるのを感じた。 俺より年上の癖に、ミゲルは案外子供だったりする。 自分の機嫌の悪さを前面に出し、相手に罪悪感をあおるのだ。 正直、そんな事はもう慣れっこだし、別に俺だけが悪いわけじゃない。 そう心の中で思っていると、ミゲルはいきなりすくっと立ち上がり部屋を出て行ってしまった。 俺はミゲルの背が扉の向こうに消えるのを見るしかなくて、無常にもドアはすぐにしまってしまった。 「なんだよ、バカミゲル」 いくら俺にムカついたからって、部屋からいなくなる事ないじゃんかよ。 この場にいないミゲルに悪態をついてみるが、それ以上に自分の気持ちを素直に言えない俺自身への不満がつのるばかりで、どんどん胸が重くなっていく。 「本当はもっと別の言葉がいいたかったんだけどな」 手にしていた本を閉じ、そのままミゲルのベッドの上に転がった。 自分ひとりバカをやっているようで、情けなかった。 いいや、不貞寝しよう。 そう結論付け、光を遮るように目を閉じた時だった。 静かだった部屋のドアが再び開かれ、コツコツとこちら側に近づいてくる足音を感じた。 俺はてっきりミゲルのルームメイトであるオロールだと思っていたが、俺の予想に反し、それはミゲルだった。 一言俺の名を呼び、なんだろうと思って目を開けた。 「ほらよ」 いきなり戻ってきたかと思いきや、突然投げられたものに、俺は一瞬反応が遅れたが、それを見事にキャッチした。 「何、これ?」 「見てわかんないのか?飲み物だろ」 それ位、俺だってわかるし。 今、俺の手におさまっているのはドリンクのボトルだ。 今さっき取ってきたらしく、まだ冷たいそれをみてミゲルの心理がつかめなかった。 なんでいきなり、ミゲルがこんな態度に出たのか。 それを聞きたかったのに、ミゲルはそれに気付いていてわざと気付いていないふりをしている。 だから俺もあまり深くは追求せずに、受け取った飲み物に口をつけた。 程よく冷えた液体が滑り落ち、ゆっくりと体に浸透していく。 それは少し恋に似ているかもと思ってしまった。 初めはもっと冷静だった。 ミゲルの態度を見て、何かおかしいと思ったのは俺だったし、俺は自分の気持ちを隠すのは上手かったと思う。 だけどいつの間にか自分の方が夢中になっていた。 多分、それが悔しかったんだと思う。 そっとミゲルに視線を移すと、ミゲルの愛機にも似た瞳とぶつかった。 すぐにそらそうと思ったけど、なぜか魔に魅入られたようにそらす事は出来ず、しばらく沈黙が続いた。 そしてそれを破ったのはミゲルだった。 「俺はお前に何かを強要するつもりはない。だけどな、俺の前でさっきみたいな態度を取るのだけはやめてくれ」 「さっきみたいな態度って?」 分かりきった答えが返ってくるのは確実だったけど、俺がそう問えば、ミゲルは静かな声で続けた。 「何かに我慢するんじゃなくて、自分の気持ちを表に出せって言ってんだよ。相手に遠慮する関係でもないろだろ?俺達の場合はな」 その一言で、今まで意地を張っていた自分が、本当にガキだったと気付かされた。 確かに"コイビトドウシ"なら、遠慮は無縁なのかもしれない。 勿論、節度は大切だ。 だけど、気の使いすぎは相手も自分も疲れるだけだろう。 言われてみれば、凄く当たり前な事で、それと同時に難しい事でもある。 でもこうまでミゲルに言われたんじゃ仕方ないっしょ。 自分で言い出したんだから、責任は取ってもらわないとね。 「じゃあ、俺から1つだけお願い」 「なんだ?」 「俺と一緒の時だけは、俺だけを見てもらいたい」 全ての中から俺だけを見てもらう事は無理だろうけど、これなら"コイビトドウシ"らしいお願いだと思う。 そう言って、にっと笑って見せれば、ミゲルは盛大なため息をついた。 「このバカ。何当たり前な事を言ってんだよ。お前、鈍いんじゃないのか。人を浮気者みたいに言うな」 そう言って、ミゲルはどこか不満そうに口を閉じた。 俺はというと予想もしていなかったミゲルの反応にちょっと悔しいと思う反面、その言葉が妙に嬉しかった。 なんだ、思っていた以上に簡単なんだ。 自分の気持ちを伝えるのって。 どうしてこんな簡単な事に気付かなかったんだろうと首をひねりつつも、結局は問題解決にいたったからこれはこれでいいだろうと結論付ける事にした。 |
END |