「あれ?随分、珍しいもの持ってるじゃん」

外出から帰宅したてのソウルにお帰りの声をかけつつ、私の視線は彼の手に握られたミントブルーの箱に注がれていた。
ミントな彼
室内でずっと本を読みこんでいた私には、あまり影響はなかったのだが、外は相当な暑さなのだろう。
ソウルはTシャツ一枚だというのに、ところどころ、汗によるドット模様を作っていた。
暑い、暑いと片手で仰いでいるが、それが気休めにもならないのは、私にもわかる。
こんな日にわざわざ外に出かけるなど、物好きな奴だなと思う。
それでも彼は私のパートナーなわけで、彼の労を労う為に、冷蔵庫からよく冷えた飲み物のボトルを掴むと、ソウルに投げ渡した。
少し飛距離が足りないかと思ったが、そこはうまくキャッチしてくれ、無事に彼の手の中に収まる。

「サンキュー。マカ、これ食うか?」

そう言って、テーブルの上に置かれたのは、先ほどから私が気になっている箱だ。
爽やかなミントブルーに、ちょこんとミントを飾ったチョコレート色のアイスのイラスト。
どうやら、チョコミントのお菓子のようだ。

「どうしたの、これ。ソウルって、ミントとか好きだっけ?」

死武専では、職人と武器でパートナーを組むと、共同生活を強いられる。
それは魂の共鳴を高めるには、必要不可欠で、私たち二人も例にもれず、一緒に暮らしている。
掃除、洗濯、料理はすべて当番制。
二人で最初に決めたルールだったが、買物にはお互いに付き合ってもらったり、頼んだりする。
その中で、彼がチョコミントのお菓子を選んだ姿は、今までなかった気がする。

「いや、好きでも嫌いでもない。ブラック☆スターの奴が、買ったんだよ。なのに、一口食べて、吐き出しやがった」
「なにそれ。なんでわざわざ食べられないもの買うの?」
「色が涼しそうだから買ったんだと。で、結局ギブして、押し付けられた」
「本当にバカだわ」

確かに、ミントの香りはスーッとする。
デザートに乗っているミントを口にしても、爽やかな感じになる。
だが、チョコミントの味は、少し癖があり、人によって好き嫌いが激しい。
ブラック☆スターは、それをきちんと判断できずに、口にしたのだろう。

本当に単純だな、あいつ。

その場にいないのに、容易にその場面が頭に浮かび、ため息をつく。
そして、再度ミントブルーの箱を見る。
ちなみに私は割と好ましい味だと思っている。
遠慮なしに箱に手を伸ばし、蓋をあける。
長方形の箱には、キューブ型のチョコレートが並んでいる。
真ん中だけ、ぽかんと空いてて、ブラック☆スターがそこからチョコレートを取ったのが、容易に想像できる。
私は箱の端から一個チョコレートをつまむと、口に運ぶ。
ミルクチョコレートにコーディングされているため、一口目の感想はちょっと甘め。
でもミントの味が次第に混ざり、少しだけ口の中が爽やかになる。

「うん、おいしい」

もう一つ食べようと手を伸ばす。
その視線の端に、興味がなさそうにソファに座るソウルが映る。
お気に入りの音楽雑誌を読んでいるようだ。
チョコレートの味を堪能しつつ、ソウルって、チョコミントっぽいかもと思う。
普段クールを気取っているけど、決して淡泊ではなく、優しさを含んでいる。
それが何となく、チョコミントに重なった。

「あ?」

そんな事を思っていると、雑誌から視線をあげたソウルと目があった。

「あっ…」

なんとなく、居心地が悪くなって、私はソウルから視線を外し、チョコレートに手を伸ばした。
なぜか、自分が妙に少女じみた考えをしていた気がして、恥ずかしくなったのだ。
三つ目に掴んだチョコレートは、少し溶けかけていたようで、指先をチョコレート色に染めた。
自宅だし、気にせず舐めてしまおうかと思っていると、ソウルが口を開いた。

「マカ、俺にもチョコレートくれ」
「えっ?」

チョコレートの箱を差し出そうと思ったら、その前にソウルに手首を掴まれた。
そしてソウルの顔が近づいたかと思うと、チョコレートがついた指をぺろりと舐められた。

「やっぱり夏にチョコは甘いな」

何でもないような顔して、感想を述べると、ソウルはそのまま席を立ちあがり、自室へと向き直った。
私はそのままの格好でしばらく固まってしまっていた。
文句を言おうにも、相手であるソウルは既に自分の部屋の中だ。
私はなんとも言えない気持ちを抱えつつ、前言撤回を心に誓った。

あぁ、爽やかになるどころか、逆に暑くなるとか、どういうことだ。

「ソウルのバカ…」

小さな文句は、夏の暑さに溶け込んでいった。



END





モドル